虫歯もないのに、食事をしていたら歯が割れた。歯科に行ったら「かむ力が強すぎる」と言われた……。60代の女性から、そんなお便りが寄せられました。実は、こうした歯の「破折」の背景に、「食いしばり」や「歯ぎしり」が隠れていることがあるといいます。日本大学松戸歯学部の小見山道教授(クラウンブリッジ補綴(ほてつ)学)に、原因や予防法を聞きました。

歯を失う原因、歯周病・虫歯に次いで多い「破折」

 Q 食事中に歯が割れたそうです。

 A 歯を失う原因の1位は歯周病、2位は虫歯ですが、実は3位は歯の破折です。ちょっとした割れなら治療できますが、深い部分まで割れてしまうと修復は難しく、歯を抜かざるをえません。

 Q 「かむ力が強い」ことが原因と言われたそうです。どういうことでしょう。

 A 歯の破折の原因の一つに、歯ぎしりや食いしばりがあります。専門用語ではこれらを「ブラキシズム」といいます。長年にわたる歯ぎしりや食いしばりによって、歯に常に強い力がかかり続けたことで、疲労が蓄積して起こります。食事の時にかかる力よりもはるかに大きい力が、繰り返しぎゅっと加わることで、歯に目に見えない細かいひび(クラック)が入っていき、最終的にちょっとした拍子にパキッと割れるのです。

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日本大学松戸歯学部の小見山道教授=千葉県松戸市

 Q 加齢とともに割れやすくなりますか。

 A 年月を経ると蓄積疲労が大きくなるので、高齢になるほど歯の破折は多いです。また、過去の歯科治療で神経を抜いた歯は割れやすいので要注意です。

深呼吸やリラックス 意識して歯と歯をはなす

 Q 歯の割れを予防することはできますか。

 A 日中の食いしばりをできるだけ減らすように心がけましょう。人は通常、起きて安静にしている時には上下の歯の間に2~3ミリのすきまが空いています。ところが、これがぴったりついて力がかかってしまうのが食いしばりです。食いしばりは、いわば脳が記憶した動作の「悪い癖」で、パソコン作業や仕事、趣味など、何かに集中しているときに起こりやすい。

 そこで、こうした癖のある人は、机や台所などの目につく場所に、注意を促す付箋(ふせん)をはっておき、気づいたら意識して上下の歯を離すようにするのが一つの対処法です。深呼吸もおすすめです。トイレに行く、お茶を飲むなど、リラックスする時間を意識して作ることも予防になります。

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物事に集中しているときについ、歯を食いしばっていませんか?

歯の健康に大切な「睡眠の改善」

 夜間の歯ぎしりがひどい場合は、歯を保護するためにマウスピースを使うことも有効です。歯ぎしりについては、なぜ起こるのかは詳しくわかっていませんが、浅い眠りのときに起こり、深い眠りの時には起こらないことがわかっています。「ぐっすり眠る」ことは、歯の健康にも大切です。規則正しく健康的な生活を送ることや、睡眠の質を改善することも、ぜひ心がけてください。

 Q 食いしばりを放っておくと、健康に悪いのでしょうか。

 A 歯が割れるだけでなく、あごが痛くなったり、歯周病がひどくなったりする危険があります。また、こめかみのあたりの筋肉が常に緊張しているため、緊張型頭痛が起こることもあります。

「朝あごがだるい」「口中の歯がしみる」は要注意

 Q 無意識の行動だと、自分で気づくのが難しそうです。気づくサインはありますか。

 A 口の中全体の歯がしみる人は、普段から食いしばっている可能性があります。また、食いしばりがある人は、夜に歯ぎしりをしていることも多く、朝起きたときにあごがだるい・口を開けにくいという人は要注意です。食いしばりについて詳しい「日本顎(がく)関節学会」や「日本補綴(ほてつ)歯科学会」の専門医を受診することをおすすめします。(聞き手・鈴木彩子)

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