ゴーグルを頭に着け、コントローラーを手に持って行うVRリハビリの様子。奥は作業療法士=愛知県弥富市の偕行会リハビリテーション病院で

 脳卒中など脳血管疾患の患者は国内で174万人を超える。後遺症が残る人も多く、効果的なリハビリが回復の鍵を握る。科学技術の進歩で、注目を集めるのが仮想現実(VR)を利用したリハビリだ。ゲーム感覚で運動・認知機能を鍛えられ、効果も出ている。 (熊崎未奈)

◆座ってゴーグル装着

 愛知県弥富市の偕行会リハビリテーション病院では、2022年から脳障害の患者らを対象に「mediVRカグラ」を使ったリハビリを導入している。田丸司院長は「脳の働きを刺激して、脚や腕の運動機能も改善する効果がある」と話す。  どのようなものか、実際に体験してみた。いすに座り、頭にゴーグルを装着すると、目の前に立体的な空間が現れる。「腕を伸ばして、落ちてくる果物をタッチしてください」と作業療法士。タイミングを合わせ、手に持ったコントローラーを前に突き出して、目の前に落ちてきた果物にタッチすると、効果音とともに消えた。座ったまま、この動作を左右交互に繰り返す。

目の前に現れる果物をタッチするVRのゲームのイメージ=mediVR提供

 上半身の単純な動作だが、同病院では、取り組んだ患者には後遺症の改善が見られているという。例えば、脳梗塞の70代男性は左側の空間が認識しにくくなったり、注意力が散漫になったりする後遺症があった。VRのリハビリを始めた頃は、ターゲットが見つけられず、コントローラーを落としてしまうこともあったが、徐々に改善。計30回のリハビリ後の検査では、左側の見落としが減り、文章を見せられた際に内容を理解できるようになった。  このほかの症例でも、立ったときのバランス機能が改善したり、動作に集中できるようになって、トイレなどの介助量が減ったり、効果が見られたという。

◆全国の123施設で導入

 なぜ、効果があるのか。カグラを開発・販売するmediVR社(大阪)の原正彦社長は「働き方を忘れてしまった脳が再び働くよう、いわばプログラミングし直している」と説明する。原さんによると、VR空間で患者は目標物と自分自身の位置を重ね合わせるような認知処理と身体動作をする必要がある。これを行うには、脳内で運動イメージを正確につくる必要があり、何度もリハビリを繰り返すことで脳と体が正しく動かせるようになっていくという。  目標物に触れるとすぐに視覚、聴覚、触覚を通じて刺激が得られることで、脳の運動学習が効率的にできるように。また、ゲーム性を持たせることで、脳が刺激を欲して、進んで動作を行う作用もある。  原さんは循環器内科医として、心筋梗塞の後に脳梗塞を起こし、社会復帰が困難になる患者を多く見てきたことがきっかけで、リハビリ機器の必要性を実感。16年に起業した。カグラは現在、全国の123施設で導入されている。「VRだからこそ効率的なリハビリができ、早期の社会復帰につながる。VRの活用を当たり前にしていきたい」と話す。  田丸院長も「単調になりがちなリハビリには楽しさも大事な要素。最先端の技術を使うことで幅広い選択肢が生まれる。症例を増やしていきたい」と注目する。


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