抗コリン薬。耳慣れない名前だが、実は花粉症、せき、不整脈、過活動膀胱(ぼうこう)など多種多様な疾患に使われている。一方で、高齢者を中心に認知・運動機能の低下などの有害事象を起こす可能性があり、海外では各薬物でのリスクをまとめた評価表が作られている。日本でもやっと今年、日本版が完成。市販薬にもリスクの高い成分が入っていることが分かってきており、抗コリン薬の適切な利用の一助になりそうだ。 (大森雅弥)  アセチルコリンという神経伝達物質は副交感神経の働きを活発にし、いろんな臓器などに影響を与える。例えば、鼻水やせきが異常に出たり、不整脈を起こしたり、おしっこが近くなったりする。そうした働きを抑えるのが抗コリン薬だ。ほかに胃潰瘍、パーキンソン病、精神疾患、下痢などにも使われており、非常に汎用(はんよう)性が高い。  一方、全身に作用するだけに多種の有害事象を招きかねない面がある。具体的には認知機能の低下、口の渇き、運動機能低下に伴う転倒、排尿障害など。  とりわけ高齢者では複数の抗コリン薬が使われていることが珍しくなく、さらにリスクが高まる。世界的に投薬管理の必要性が指摘され、薬物で唯一、「リスクスケール」と呼ばれるリスク評価表が作成されることになった。海外では米国、ドイツ、ブラジル、韓国など十数カ国が作成済みだ。  日本では今年5月、日本老年薬学会が日本版抗コリン薬リスクスケールをまとめ、学会のホームページで公開した。日本で入手可能な薬物のうち、漢方薬など一部を除いて文献調査や薬理評価などを行い、リスクの強さを最高3から1までのスコアで判定した。対象になった薬物は158種類。スコア3に該当したのは37種類、同2が27種類、同1が94種類だった。  スケールを作成したワーキンググループ幹事で国立長寿医療研究センター高齢者薬学教育研修室長の溝神文博さん(39)=写真=によると、スコア3は「可能ならば、使用を控えたり、同2以下の薬物に替えたりすべきレベル」。抗うつ薬、胃潰瘍などの消化管疾患の治療薬といった副作用が強そうな薬以外に、アレルギー疾患治療薬が多かった。  一方、薬局・薬店で売られている一般薬でも、スコアが付いた薬物が36種類(スコア3が15、同2が4、同1が17種類)あった。約1万の販売品目のうち37・6%に当たるという。  販売品目が多い薬物としては、アレルギー疾患治療薬のクロルフェニラミンとジフェンヒドラミンが1位と2位=表参照。この二つは風邪薬などにも入っている場合がある。いずれもスコアは最高の3。効果とリスクのバランスをどう考えるか、購入時の指導は十分かなどが今後議論になる可能性がある。  溝神さんは「スコアが付いたから即駄目ということではない。医療従事者には、リスクを理解した上での処方や、有害事象が出た場合に抗コリン薬の可能性を考えた治療につなげてもらえたら」と話す。  厚生労働省医薬安全対策課は、高齢者において多剤服用による有害事象(ポリファーマシー)が問題になっている点を指摘。今回のスケールで「各抗コリン薬のスコアを合算した値が下がるように医療者が介入することで、有害事象を減少させることができる」と期待を表明した。


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