尋常性白斑の患部(森田教授提供)

 皮膚の色が病気によって変わり、外見に悩む人は多い。色が抜けて白いしみのようになる「尋常性白斑」もそうした疾患の一つ。治りにくい病気だが、発症の詳しい仕組みはこの10年で明らかになり、治療法も進歩している。 (佐橋大)  石川県の女性(92)は数年前から両目の周囲に、はけで塗ったように皮膚の色素が抜ける白斑が出始めた。薬を塗っているが、少しずつ広がっている。外出時には肌の色をカバーする化粧をし、周囲に気付かれないというが、自宅に戻り化粧を落とし、鏡で顔を見ると、心が折れそうになる。  長野県の女性(76)も約3年前から、目の周りや髪の生え際に白斑ができ、今では両手両足にも。「暑い季節は長袖で隠せずにつらい」という。

◆色素減少など原因

 肌の色は表皮にある色素細胞(メラノサイト)がつかさどっている。名古屋市立大大学院医学研究科教授で皮膚科学が専門の森田明理(あきみち)さん=写真=によると、体の免疫の仕組みや薬剤の影響で色素細胞が壊れたり、細胞自体の老化や異常で減ったりして、色素が減って白斑になる。人口の0・5~1%がなるといわれている。  「失われた色素を再び作る『色素再生』と、炎症を抑える『安定化』が治療のカギになる」と森田さん。色素再生に、力を発揮するのが、機械で患部に紫外線を当てる「光線療法」。安定化には、ステロイドなど免疫の働きを抑える塗り薬や飲み薬が有効とされる。  森田さんが治療に携わる名市大病院では、自ら開発に関わったものを含め、7種類の光線を発する機器を備え、白斑の治療にあたっている。年間の初診数は約100人だ。  「より効果的な光の当て方や光の組み合わせ方などが、この10年で少しずつ分かってきて、治療の効果を上げている。週に少なくとも1回以上の照射が必要」と森田さんは説明する。患者の5~7割で色素再生が見られ、顔や首などでは7~8割の患者で良好な反応という。ただ、最短でも数カ月はかかり、長い場合は1年を超えることも。手の指や手の甲、髪の生え際は治りにくいという。

◆先進例の普及課題

 発症のメカニズムがより詳しく分かってきたことなどで、薬物治療も進歩している。現在は、治験中というが、アトピー性皮膚炎の薬JAK阻害薬と光線療法の組み合わせも、有効性が高いと注目されている。

発光ダイオード(LED)を使った光線療法の治療機器=名古屋市瑞穂区の市立大病院で

 色の抜けた部分に表皮を移植する方法もある。正常な色素のある部分から採取した1ミリ程度の皮膚片を白斑の患部に複数移植し、そこに光線を当てて周辺の色を取り戻す療法が、名市大病院などでこれまで行われてきた。昨年は新たに、移植用の培養表皮の製造が承認された。患者の正常な部分の皮膚をシート状に自家培養し、患部の広い範囲に移植する。費用は高額になりそうで、製造元の企業が保険適用を申請中という。  森田さんは「米国で既に販売されている外用薬も、数年後には販売されるようになるだろう。治りにくい疾患だが、治療の選択肢は今後大きく広がっていく。治療をあきらめないで」と呼びかける。  課題は、こうした先進的な治療をどう広げていくか。来年早々には日本皮膚科学会が作る尋常性白斑の治療ガイドラインが13年ぶりに書き換えられる見通しで「多くの医師に共有されるには時間もかかる。ガイドラインを通し、より効果的な治療法が普及することを期待したい」と話す。


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