米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手の元通訳者水原一平被告の違法賭博事件でギャンブル依存症が注目されている。5月14~20日は、「ギャンブル等依存症問題啓発週間」。誰もが陥る可能性があるこの病気のメカニズムや治療法を紹介する。 (大森雅弥)  「ギャンブル依存症の特徴は借金をして、そのために平気でうそをつくこと。まさに水原被告は典型」。そう話すのは、国立病院機構久里浜医療センター精神科医の西村光太郎さん(56)だ。  例えば、若い男性が大学時代にパチンコやパチスロを始めて借金をするようになり、30代で非合法カジノにはまった挙げ句、家族に内緒で億単位の借金を抱えた、というようなケースは少なくないという。  西村さんによると、依存症は、特定の物質摂取や行動によって神経伝達物質ドーパミンが分泌されることから始まる。その作用で中枢神経が興奮して快感を覚え、これを繰り返すうちに脳が快感を「報酬」と認識するように。無意識に報酬を求める回路が脳にできると、「依存」の状態が形成される。国内で依存症が疑われる人は、2019年推定値で約200万人。  なぜリスクを冒してまでギャンブルにはまるのか。もともと人間には、約35%の確率を境にして、小さい確率(例えば当たる確率)を実際よりも過大にとらえる認知のゆがみがあるという。依存が形成された状態では、ドーパミンの増加で気持ちが大きくなってさらにゆがみが強まり、より高いリスクを伴う安易な賭けに出るのだという。  この状態では、ドーパミンの代謝物質のノルアドレナリンも増える。この物質は集中力を高め、より冷静に現実を見させる効果がある。賭け事に対し、より慎重な判断を下すようになる一方、負けをより多く認識し、失ったお金を取り返そうという気持ちが強まるという。興奮と冷静が打ち消し合うのではなく、相乗効果で賭けに走ってしまう。  では、どういう人が危ないのか。西村さんによると、遺伝の影響を示唆する報告はあるが、アルコール依存症と違って原因遺伝子は完全には特定されていない。統計的にリスクが高いのは20代前半までの若い男性。興奮しやすい性格の人もはまりやすい。ギャンブルへのアクセスや借金が容易などの環境要因も大きい。同センターの初診患者の1割は公務員という。  治療では、問題となる賭け事にあえて向き合わせながらギャンブル衝動を抑える技術を学ぶ行動療法のほか、不健康、不合理、後ろ向きの思考に向き合い、健康的、合理的、前向きに変えることを目指す認知行動療法が最も有効とされる。同センターは患者5、6人でグループをつくり、1回60~90分のセッションを6回行うプログラムを実施している=全国の治療機関のリストはこちらから。心配な人は、同センターが作成したチェック表で自己診断しよう。  西村さんは「対策に本腰を入れるには、高校・大学の段階でギャンブルの危険性を教えることが必要。最近はオンラインで簡単に賭けができる環境になっているので、家族の申告でアクセスを停止する対応も強化すべきだ」と話している。


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