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<「経営の神様」と呼ばれる経営史に名を残すビジネスパーソン達は神仏に熱心に祈っていた。彼らはいったい何を祈ったのだろうか?>
「祈っても得をしない」ことはわかっていたが...
パナソニック創業者の松下幸之助は、神仏に熱心に祈っていたことが知られている。
『成功するビジネスパーソンは、なぜ忙しくても神社に行くのか?』(PHP研究所)の著者である八木龍平さんは「願いごとよりも、自身の『あり方』『あるべき姿』を神様に誓い続けるのが、一流のビジネスパーソンに共通の『祈り』だ」という――。
※本稿は、八木龍平『成功するビジネスパーソンは、なぜ忙しくても神社に行くのか? 』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
【パナソニックには「神社管理担当」の正社員がいる】
大手総合電機メーカー「パナソニックホールディングス」には、会社の中に神社があります。週刊誌『AERA』の記事(2018年1月15日号)に、頭を丸めた僧侶姿の田中観士さんの取材記事が掲載されていました。
名刺には、「パナソニック本社グループ人事・総務センター 祭祀担当」(当時)の肩書が。本社をはじめ、関西エリアの事業所に設置されている計24カ所の「社内社」の祭祀一切を仏式で任されているということです。
パナソニックといえば、創業者の松下幸之助氏は石清水八幡宮(京都府八幡市)、野田恵美須神社(大阪市福島区)の総代をお務めになられました。総代は信者の代表。野田恵美須神社がある地域はパナソニック創業の地で、松下氏自身、最後まで本籍を置き続けたゆかりの地です。
総代を務めただけだと、「信仰心の篤い方」という印象ですが、祭祀担当の社員が代々いるとまでなると、なぜそこまでと不思議に思われるでしょう。先の田中さんは5代目で、本社別館の「司祭室」に勤務し、毎朝出社とともに香をたき、袈裟に着替えるそうです。
なぜ松下幸之助氏は会社内に神社を建てたのか
同社はかなり戦略的に神様(龍神)を活用しており、守護神は本社の白龍大明神を中心に、黒・青・赤・黄と5色の龍神と下天龍王、善女龍王が祭られています。
本社:白龍大明神
旧松下電工グループ:黒龍大明神
旧松下電池工業:青龍大明神
自転車事業部:赤龍大明神
旧松下電子工業・旧松下産業機器:黄龍大明神
音響映像関係の事業場:下天龍王
西宮の松下幸之助邸宅(光雲荘):善女龍王
開発研究所:天照大神
新たな事業所の開設とともに龍神の社が守護神として建立され、一時期は130カ所以上にもなりました。現在は全国の事業所に約100カ所の社があり、全ての社で幹部・管理職が同席して毎月の月例祭がおこなわれています。
松下幸之助氏が会社内に神社を多く建てた狙いは、結局のところひとつと推測しています。それは、「運を強くする」ということです。
【採用面接の最後に「君は運が強いですか?」と質問した】
松下氏は、採用面接の最後に「君は運が強いですか?」という質問をしたそうです。そして「運が悪いです」と答えた人はどんなに学歴や試験結果がよくても不採用にしたと伝わっています。
運を意図的によくする方法があるなら、みなさんも知りたいだろうと思います。
松下氏の運をよくする原点は松下家ゆかりの守護神である白龍大明神でしょう。創業した際、和歌山市内の生家で祭られていたのを「御霊分け」し、以来、本社に祭られています。
企業経営と宗教、両者は全く関係なさそうですが、実は多くの日本企業が様々な宗教的行為を取り入れています。
以前、東京品川の高野山東京別院を訪れた時、コカ・コーラ関連の企業が社員研修をやっていました。高野山に伝わる阿字観という瞑想法をお伝えしているとのこと。その際、僧侶の方からトヨタの社員研修をされている旨も伺いました。
瞑想法は能力開発の一環と捉えられているようです。
神社の建立や祭祀も、企業経営で活用するからには、成果をあげてナンボでしょう。実際、成果につながることをこれからお示しします。
【社寺のある地域では、「住民の地域愛」が増す】
社寺参拝が主に効果を発揮するのは、次の2点です。
・より誠実に、より一生懸命に取り組む
・他者の利益のために動ける協力的な人間性を育む
私の書籍をお読みの方なら、よくご存じのことですが、社寺のある地域では、住民の地域愛が増します。ある対象を愛すると、愛した対象のために貢献したい意欲が増します。より誠実に一生懸命がんばるわけですから、結果も向上します。
※このアイデアの元データは、2008年の土木学会で鈴木春菜氏ら東京工業大学の研究室メンバー(当時)が発表した論文。515名を対象に地域愛着について調査し、多変量解析でデータ分析した結果、社寺のある地域は、住民の地域愛が増す一方、他の要素(ゲームセンター・パチンコ店、川や池、田畑、森林、ファミレス、鉄道駅、商店街、公民館、大型ショッピングセンター、コンビニ、スーパー、古いまちなみ)は影響しないことを確認したものです。公園は、社寺に次いで地域愛着を増す傾向があります。
【「神社のある会社」が成果をあげる理由】
私がよくご紹介しているパフォーマンス向上のプロセスは、
知る→愛する→貢献意欲が増す→パフォーマンスが向上する
パナソニックの龍神社をこのプロセスに当てはめると、神社のある会社は、社員の会社愛が増します。会社愛が増すと、愛した対象のために貢献したい意欲も増して、より誠実に全力で仕事に取り組み、成果も向上します。
愛する要因は、相手のいい部分を知ること。会社のいい所を知り、会社愛や職場愛が増せば、「この人たちのためになりたい」と、より誠実に、全力で仕事をして結果が出るのは自然の流れでしょう。
このように神仏に祈ることで身に付く「愛を持って生きる力」は、成功するための大切な力と共通点が多いです。その大切な力は、ペンシルベニア大学心理学部のアンジェラ・リー・ダックワース教授が提唱するGRIT(グリット)です。日本語で「やり抜く力」と定義されており、次の4つの要素から成り立ちます。
【神仏はあなたの「GRIT」(やり抜く力)を向上させる】
・Guts(ガッツ):困難なことにも立ち向かう度胸
・Resilience(レジリエンス):苦境にもめげずに立ち直る復元力
・Initiative(イニシアチブ):自ら目標を見つけて取り組む自発性
・Tenacity(テナシティ):最後までやり遂げる執念
神仏に祈ることで身に付く「愛を持って生きる力」は、GRITの4要素を大いに向上させることでしょう。
ダックワース教授は、IQなど生まれつきの才能や環境よりも、努力や継続の重要性こそが成功に重要だと説いています。その主張がどこまで妥当かは本書では扱いませんが、この「やり抜く力」も成功に重要な要素であることは間違いないでしょう。
同時に、やり抜けるモチベーションの問題は大きいと思います。大変な労力がともなうのですから、人はなかなか「やり抜きたい」とは思い続けられないものです。
だからこそ、社寺の存在が促す「愛を持って生きる力」の役割も大きいと言えます。愛する人たちのために人は努力し、困難な状態においても、最後まで「やり抜ける」モチベーションを持続できるのではないでしょうか。
【稲盛和夫は「おい、神様に祈ったか?」と声をかけた】
「経営の神様」と呼ばれる松下幸之助氏(パナソニックグループ創業者)と稲盛和夫氏(京セラ・KDDI創業者)。経営史に名を残すビジネスパーソン達はいったい何を祈ったのでしょうか?
「おい、神様に祈ったか?」
稲盛和夫氏の著書『働き方』(三笠書房)に出てくる稲盛氏の声かけです。まだ創業10年も経たない京セラにIBMから大量受注があった時のことです。IBMの要求水準は当時の京セラの技術水準を大きく上回り、いくら試作品を納めても品質検査で「不良品」と判定され、返品され続けました。
そんなある晩、職場で呆然と立ち尽くし、万策尽きたといった風情で泣く技術者に対し、稲盛氏は思わず「おい、神様に祈ったか?」と声をかけたのです。
稲盛氏の真意は、「人事を尽くし、後はもう神に祈り、天命を待つしか方法はないと言えるほど、すべての力を出し切ったのか。自分の身体が空っぽになるくらい、製品に自分の『思い』を込め、誰にも負けない努力を重ねたのか」(同書より引用)ということでした。
【「力の限り努力しますが、神様もお助けください」】
その技術者は、稲盛氏の言葉で再び気持ちを奮い起こして開発に取り組み、IBMから「合格通知」を受ける製品を完成させました。
このエピソードから、稲盛氏にとって神仏への祈りは、前述のGRIT(グリット)、すなわち「やり抜く力」を付けるためと推測します。人事を尽くしきる力です。
のちに僧侶になるほど仏教に傾倒した稲盛氏ですが、神社参拝にもこだわりがあり、京セラ第2代社長である青山政次氏の著書『心の京セラ二十年』(非売品)よると、初詣は京都の車折神社、八坂神社、伏見稲荷大社に連続して参拝されたようです。
特に車折神社は、当時の稲盛氏の自宅近くにあり、創業して最初のお正月に「一番にお参りしたい」と、元旦午前0時前に稲盛夫妻と青山夫妻の4人が集まりました。そして時計が0時を指した瞬間、稲盛氏と青山氏は2人一緒に鈴を鳴らして拍手を打ち、京セラの発展を祈願したと伝えられています。
稲盛氏は何事も一番が好きで、初詣も一番にお参りして、「自分は力の限り努力しますが、神様もお助けください」と、神様の加護を願ったそうです。
【「経営の神様」は神社で何を祈ったのか】
神仏参拝でおそらく一定の人が「引っかかる」「疑問に思う」のは、次の点ではないでしょうか。
・祈ったら得するのか?
・祈らなかったら損するのか?
この点について、松下幸之助氏の著書『PHPのことば』(PHP研究所)には、「特別にお祈りをしたからといって、とくにその人だけに恵みが多く与えられるわけでもなく、またお祈りをしないからといって、恵みが与えられないというわけではないのであります。このように考えるのは、人間の得手勝手な独断で、天地の恵みは、小さな人間の知恵を超えて、すべての人に平等に、さんさんとして降りそそいでいるのであります」と記されています。
では、いったい何のために祈るのか?
松下氏が別邸の真々庵を訪れた時に必ずしたことは、根源社という社に向かって「今日1日、素直であれますように」とお祈りし、そして「今日1日、素直であったかどうか」を反省することでした。
稲盛和夫氏は「力の限り努力すること」を祈りました。
松下幸之助氏は「素直であること」を祈りました。
自身の「あり方」「あるべき姿」を神様に誓い続けるのが、経営の神様と言われたビジネスパーソンに共通の「祈り」です。
これを読んだあなたは、どうありたいですか?
ご自身のありたい姿を、神仏にお祈りしてみてください。
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※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら。鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。