29日の外国為替市場で円相場が大きく乱高下した。一時1ドル=160円台前半に下落した後、一気に155円台半ばまで買い戻された。その後157円台前半まで下落すると、再び154円台半ばに上昇。午後5時現在、この日だけで5円を超える変動幅となっている。市場では、急激な円安の加速に歯止めをかけるため、政府・日銀が円買い・ドル売りの為替介入に踏み切った可能性があるとの見方もある。為替介入を実施していれば、2022年10月以来となる。
日銀は26日の金融政策決定会合で、低金利政策の維持を決定。会合後の記者会見で植田和男総裁は「基調的な物価上昇率が上昇していけば金融緩和の度合いを調整するが、当面は緩和的な金融環境が継続する」と述べた。これを受けて円相場は急落。26日のニューヨーク市場で一時1ドル=158円台を付け、1990年5月以来約34年ぶりの安値となった。26日の1日だけで2円を超える円安進行になっていた。
財務省の神田真人財務官は29日午後、記者団に「為替介入の有無については申し上げることはない」と述べたうえで、同日の円相場の動きは「投機がもたらす過度な変動だ」との見方を示した。
円は対ユーロでも下落し、一時1ユーロ=171円台と単一通貨ユーロが導入された99年以降の最安値水準となったが、その後は一転して円高が進んでいる。
為替市場では運用に有利な高金利の通貨ほど買われやすい。インフレ抑制のため利上げを続けてきた米連邦準備制度理事会(FRB)は年明け以降、物価上昇率の鈍化を踏まえ利下げに転じるとみられてきたが、堅調な米経済指標の発表が相次ぎ、利下げ開始時期が遅れるとの見方が拡大。各国の通貨に対して高金利のドルが買われる「ドル独歩高」の様相となっている。
円相場も例外ではない。日銀は3月にマイナス金利政策を解除し、17年ぶりに利上げに踏み切った。しかし、米国との金利差は依然として大きく、円安の流れは止まらなかった。
3月中旬に149円台後半だった円相場は日銀の政策変更後も下落を続け、3月27日に151円台後半と22年10月につけた安値を更新。その後も円売りは止まらず、90年以来約34年ぶりとなる安値を更新していた。
円安は輸出企業に有利に働く一方で、輸入価格の値上がりを通じて国内物価の上昇要因となる。今春闘では中小企業を含め大幅な賃上げが進んでいるものの、物価の高止まりにより実質賃金は今年2月まで23カ月連続でマイナスとなっている。物価高に賃金上昇が追いついていない形だ。
政府・日銀は円安が進んでいた22年9月から10月にかけ、計3回の円買い・ドル売り介入を実施している。直近の円相場は22年当時の介入水準よりも円安になっており、政府や日銀幹部は強い口調で市場をけん制する「口先介入」を繰り返していた。【大久保渉(ワシントン)、加藤美穂子】
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