26日の外国為替市場で円安の動きを加速させる引き金となったのが、日銀による金融政策の維持だった。高金利が続く米国のドルと低金利の円の金利差が意識され、年初から約4カ月の下落幅は約15円に達した。背景には米国経済の底堅さに伴う「ドル高」もあり、週明け以降も円安の流れが引き継がれるとみられる。過度な円安進行を懸念する政府・日銀が円買い・ドル売りの為替介入で歯止めをかけられるのか、手腕が試されそうだ。
この日は海外市場を含めて3円近く円安が進んだ。最初のきっかけは日銀の方針決定だ。1ドル=155円台半ばで推移していた円相場は、低金利政策の維持が決まった直後に156円台前半にまで到達した。
さらに、植田和男総裁の記者会見中も円が売られた。市場では円高傾向に働く追加利上げの可能性を注視していた。しかし、植田氏が「(現時点の円安進行が)基調的な物価上昇率に大きな影響を与えていない」などと発言したことが利上げに慎重だと受け取られ、156円台後半に迫った。
その後、米国の堅調な経済指標が発表された後は157円を目前とした取引が続いたが、一旦節目を突破すると157円台半ばへと下落。介入の水準を探る神経質な取引を繰り返し、ニューヨーク市場が取引を終える直前に158円台前半まで一気に円安が進んだ。
これまで鈴木俊一財務相は過度な為替変動に対して介入を辞さない構えを示してきた。17日に開かれた日米韓の財務相会合では円安に関する懸念を日米で共有する趣旨を共同声明に盛り込み、市場では介入に向けた環境整備と受け止めて警戒感も高まった。
しかし、イエレン米財務長官は25日のロイター通信のインタビューで「市場の混乱や過度な変動がある場合のみ、まれに行われる」と発言。政府が市場取引を意図的にゆがめる為替介入に慎重な姿勢を示した。
円の下落幅は2022年9月の介入前と同じく、約4カ月間で15円程度になったが、鈴木氏は「しっかりと対応していく」と述べるにとどまっている。
これまでの値動きは、なかなか介入に踏み切らない政府・日銀に対し、市場が足元を見透かして出方を探り、円安に歯止めがかからない状況に陥っているようにもみえる。
円安を懸念する日本の立場とは異なり、米国でドル高が問題視されていないのは、米政府にとっての足元の最大の課題が物価上昇(インフレ)の抑制にあるからだ。自国通貨のドルが強くなれば米国が輸入する商品の価格が安くなるため、進行中のドル高・円安は経済政策上はプラスに働く。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測も遠のきつつある中、「ドル高はより強く、長く続きそう」(米証券大手)との見方が広がっている。
介入してもその効果は限定的だとする見方も根強い。ある市場関係者は「(ドル高の背後にある)経済指標の流れと整合せず、驚きのない為替介入は成功しないだろう」と指摘する。
第一生命経済研究所の藤代宏一主席エコノミストは「ドル高の風が強く吹く中で介入しても(円安へと)押し返されかねない。この環境が変わらなければ踏み切りにくい」と指摘。また、FRBが30日から2日間開く米連邦公開市場委員会(FOMC)後の利下げに関する発言が注目点だといい、「基本的には次の節目の1ドル=160円に向かっていくだろう」との見解を示した。【浅川大樹、ワシントン大久保渉】
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