FRBは10月9日、FOMC議事要旨(9月17-18日)を公表した。FOMCでは、50bpの利下げが決定し(FF金利誘導目標は4.75-5.00%)、9会合ぶりの政策変更となった。

声明文では「委員会は、インフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信を強めており、雇用とインフレ率の目標達成に対するリスクがほぼ均衡していると判断する」(ロイター訳。以下同)とされ、7月FOMC時の「リスクのバランスが引き続き改善に向かっていると判断する」と比べて労働市場に対するリスクが高まったことが示唆された。

もっとも、「失業率は上昇したが、依然として低い」とされ、緊張感はそれほど高まっていない様子だった。経済見通し(SEP)も、失業率は24年末と25年末に4.4%まで上昇するという見通しが示されたが、Longer runの4.2%を小幅に上回る程度であり、市場では強気と判断された。

9月FOMCは「50bp利下げ×強気見通し」となり、タカ派大幅利下げだった。雇用の下振れリスクを勘案して50bp利下げをしたい一方で、その決定がかえって悲観的な見方を増やすことがないように前向きな見通しを示すという狙いがあったのだと、筆者は整理している。

一部の参加者は25bp利下げを望んでいた・・・のであれば何故反対票を入れなかったのか

議事要旨は、50bp幅が適切であるという背景説明が不足していた印象だった。具体的には、「ほぼすべての参加者が、インフレ見通しに対する上振れリスクは後退したと判断する一方、雇用に対する下振れリスクは高まったと判断した」とされた一方、「しかし、一部の参加者は、労働市場の状況が大幅にさらに悪化するリスクが高まったとは考えていない」とも記されていた(筆者訳。以下同)。

その後、それほど下振れリスクに対する分析がされないまま、最終的には「委員会が初めてFF金利の目標水準を5.25~5.50%に設定して以来、大幅な進展が見られたことを踏まえ、参加者の大半は、FF金利の目標水準を50bp引き下げ、4.75~5.00%とすることに賛成した。

これらの参加者は概ね、金融政策のスタンスをこのように調整し直すことで、最近のインフレおよび労働市場の指標により整合的なものになるだろうと指摘した」とされた。

また、唐突に「一部の参加者(some participants)は、今回の会合で目標レンジを25bp引き下げることを望んでいたと述べ、また、少数の他の参加者(a few others)もそのような決定を支持していた可能性があると指摘した」とされた。

これは、強めの雇用統計を受けて議事要旨の書きぶりがタカ派方向に「調整」された記述である可能性があるだろう。仮に、「25bp引き下げることを望んでいた」のであれば反対票を投じるべきである(実際に反対したのはボウマン理事のみだった)。

このように考えると今回の議事要旨は、強い雇用統計の結果を見た後の「言い訳」を読んでいるようだった。
FRBはタカ派・ハト派と評価する以前に、手探り状態だとみておいた方が良いだろう。

50bp利下げの分析がなかった上に、市場参加者の反応を窺う姿勢が示された

議事要旨では「参加者は、今回の会合における政策スタンスの再調整は、経済見通しがそれほど良くないことの証拠や、金融緩和のペースが参加者による適切な経路の評価よりも速くなることを示すシグナルとして解釈されるべきではないことを伝えることが重要であると強調した」とされた。

前述したように、前向きの経済見通しを示すことで、市場に安心感を与えたかったようである。本音としては景気の下振れリスクが高まっていると考えており、後から批判されないように利下げを先行させたいが、景気を心配しているということは市場に悟られたくないということだろう。

むろん、現実問題として市場の期待をコントロールすることは重要である。しかし、このような議論に終始していることは、FRB内で確とした見通しがないという証左である。市場ではFRBが中立金利をどのように考えているか?といった真面目な議論が行われているが、FRB内部ではそのような緻密な議論は行われていない可能性が高い。

それどころか、FRBは市場参加者の反応をみている状況であり、市場参加者がFRBを分析することは骨折り損となる可能性もあると、割り切る必要もあるだろう。

強めの雇用統計は「結果オーライ」だったので、当面は見通し変更は想定されず

以上をまとめると、FRBは景気の下振れリスクを意識して50bpの利下げを実施したとみられるが、それほど見通しに自信もないことから、見通しについては強気を維持したようである。

その後、9月の雇用統計が強めの結果となったことから、前向きの見通しを示したことは「結果オーライ」となった。おそらく議事要旨の内容も後からタカ派方向に「調整」し、もともとFRBはそこまで弱気化していないというニュアンスを示したのだろう。

今後を展望すると、FRBは政策金利が中立金利を大きく上回っている状態にストレスを感じていると予想されるため、利下げ路線は変わらないだろう。

利下げのペースについては、市場の反応を窺いながら、タカ派方向にもハト派方向にも批判されない選択をしていくと予想される。FF金利先物市場では、年内は2回程度、25年も4回程度の利下げが予想されており、9月FOMCで示されたドットチャートの見通しとほぼ一致している。当面はFRBがスタンスを変更することはなく、淡々と利下げを実施していくと、筆者は予想している。米長期金利の上昇余地も限定的だろう。

なお、市場でレポ金利がやや上振れていることが気にされている。緩やかながらもバランスシートの縮小(QT)が進む中、流動性が枯渇することで短期金利が急騰するリスクや、それを見越してFRBがQTを停止する可能性も指摘されている。この点について議事要旨では事務方から「レポ市場とFF市場の相互関係について説明し、準備状況や短期金融市場の状態を評価するには、さまざまな指標を監視することが重要であると強調した。そうした指標の多くを考慮した結果、マネージャーは準備高は依然として潤沢であると結論付けた」とされた。QT停止の判断はまだ先となりそうである。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)

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