後継者不足により廃業に追い込まれる中小企業の事業を承継する方策として企業の合併・買収(M&A)が活況になっている裏で、悪質な仲介業者が引き起こすトラブルも多発している。中小企業の経営者らに実施した調査では、仲介業者からの営業に対し「悪い印象」を持った人は7割超。中小企業をターゲットにした一方的で強引な営業の横行が明らかになった。
一般社団法人「事業承継学会」(事務局・京都市)が中小企業の経営者や後継者、幹部などを対象に6~7月、インターネットで調査を実施、126人の回答をまとめた。
M&A仲介業者の営業姿勢について印象を聞いたところ、「非常に良い」とした人はおらず、「どちらかと言えば良い」が約25%。「悪い」の評価は、「非常に」(約24%)と「どちらかと言えば」(約52%)を合わせて、4人中3人を占めた。
「悪い」と感じた人に、どのような点が気になったのか尋ねると(複数回答)、「(回答者の)事業や経営について事前に何も調べていない」(56%)▽「手数料目当てであることが明らか」(54%)▽「M&Aを進める上でのリスク、問題点についての説明がない」(44%)▽「実績がないのにスキルがあるように見せかけてくる」(34%)――との回答が多かった。
自由回答では「何度断ってもしつこく営業をかけてくる」「具体的な案件があるなどと偽って連絡を取り付けようとする」といった声が寄せられた。
仲介業者とのやりとりを通じて感じた信頼の度合いについては「信頼できなかった」が約40%となり、「信頼できた」の約15%を上回った。「どちらとも言えない」は約45%だった。
「信頼できなかった」と答えた理由も複数回答で尋ねた。その結果、「(M&Aの)相手方の選定と相手方に関する十分な情報提供」(56%)や「当方の企業経営、事業内容に対する理解とM&A取引への反映」(56%)といった点が挙がり、仲介業者の知識不足を指摘する意見が多かった。
また、「会社を手放すオーナー経営者の思いへの共感」(46%)と気遣いの不足を指摘する声も目立った。自由回答で「企業を商材としか見ていない」と批判する人もいた。
深刻な事案も発生している。「契約成立後に会社の現預金の大半を不正に社外流出されて初めてだまされたことに気づいた」という。
取引を巡るトラブルが報じられるなどイメージが悪くなってしまったM&A仲介だが、中小企業の事業継続に有効であることは変わりない。調査を実施した事業承継学会は、さらに情報収集などを実施しながら、業界の健全化に向けたガイドライン策定や資格認定制度の導入などについて協議したいとしている。【嶋田夕子】
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