従業員の離職や採用難などにより人手を確保できなかったことが原因で倒産した「人手不足倒産」の件数が4~9月の上半期で163件あったことが4日、帝国データバンクの調べで明らかになった。調査を始めた2013年度以降、上半期としては2年連続で過去最多を更新した。賃上げの機運が高まるなかで労働市場の流動化が進んでいることが背景にある。同社は、労働条件が厳しい小規模事業者を中心に今後も高い水準で同様の倒産が続くとみている。
同社によると、今期はこれまで過去最多だった23年度上半期の135件を大幅に超え、年度としても23年度(313件)を上回る記録的なペースで急増している。コロナ禍以降に表面化した人手不足は企業経営に深刻な影響を与えている。
業種別では、建設業が前年同期4件増の55件で最多となり、物流業は前年同期と同じ19件だった。この2業種だけで半数近くを占めた。飲食店も同7件増の9件と増加幅が大きかった。全業種を通じ従業員10人未満の小規模事業者が134件と全体の8割を占めた。
建設・物流業は、トラック運転手の残業規制強化に伴う人手不足など「2024年問題」を抱えており、同社の別の調査では2業種ともに人手不足を感じている企業の割合が約7割に達した。全業種の51・5%を2割ほど上回る水準で、低下する兆しはみられない。
賃上げと人手不足を巡っては、4日に衆参本会議で行われた石破茂首相の就任後初めての所信表明演説でも言及があった。石破氏は「賃上げと人手不足緩和の好循環に向けて、一人一人の生産性を上げ、付加価値を上げ、所得を上げ、物価上昇を上回る賃金の増加を実現する」と述べた。「中堅・中小企業の賃上げ環境整備」も進めるとした。
帝国データバンク情報統括部の旭海太郎副主任は「賃上げをするよう政府に言われても、大企業は内部留保を吐き出せばいいが、中小企業はそうもいかない」と指摘する。
では、どうしたら賃上げを実現し、人手を確保できるか。その鍵は「本業でちゃんと稼げるかどうかだ」と旭さんは説く。賃上げの原資の確保に欠かせない価格転嫁をするには売値を変える必要がある。「本業に魅力があり、値上げをしても買ってくれる商品がないと値上げはできない。となると、いよいよ本業の力が問われる時代になってくる」と旭さん。「本業で稼げるモデルを作れば、売上高が上がり、利益が上がれば賃上げができ、従業員も集まる。政府はやみくもに補助金を出すのではなく、本業でちゃんと稼げる企業を支援してほしい」と注文した。【山下貴史】
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