日銀の金融政策をめぐり、石破茂首相の発言のブレが目立っている。アベノミクスから距離を置く立場の石破氏は、日銀の早期利上げを容認するとみられていたが、株価急落などを経て一転して慎重姿勢に。日銀にとっては石破氏が思わぬ壁として立ちはだかった形で、早期利上げのハードルは明らかに高まっている。
「個人的には追加の利上げをする環境にあるとは考えていない」。石破氏は2日夜、日銀の植田和男総裁との初会談後、こう語った。「日銀の政策に、政府としてあれこれ指図する立場にはない」と前置きをした上での個人的見解とはいえ、首相が金融政策の判断に踏み込む異例の発言だった。
これに先立ち、石破氏の側近である赤沢亮正経済再生担当相も、日銀の更なる利上げについて「慎重に判断していただきたいし、経済を冷やすようなことは絶対にここしばらくやってはならない」とクギを刺していた。
もともと石破氏は、8月発刊の著書で安倍政権下で行われた異次元緩和の長期化を批判。日銀の独立性を尊重し、段階的な利上げ方針を容認するとみられていた。
ところが、首相就任を目前にした9月30日、日経平均株価は前日比1900円以上も下落し、市場では「石破ショック」との呼び声も上がった。翌10月1日の記者会見で、石破氏は「金融緩和の基調は維持されるべく、期待をしながら見守っている」と述べて日銀をけん制する立場に転じた。
こうした「変節」を受け、市場には「早期利上げに慎重姿勢。これが新政権の統一見解」(アナリスト)との見方が広がった。3日の東京外国為替市場の円相場は、前日から3円以上の円安・ドル高となり、一時1ドル=147円台前半に急落。これを好感した東京株式市場の日経平均株価は大きく値上がりした。
政府が日銀への圧力を強める背景には、衆院選の存在もありそうだ。利上げは株価の下押し要因となる。みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「株安は『景気が良くない』と映る。石破政権が大幅な株価下落というネガティブ要素にかなり神経質になっている可能性がある」と指摘する。
金融政策の判断は日銀に委ねられているが、日銀も政府の意向は無視できない。市場では「年内の利上げは困難」との見方が出ている。三菱UFJ銀行の井野鉄兵チーフアナリストは次の利上げ時期の見通しを12月から来年1月に後退させた。井野氏は「政権発足から間もない時期の利上げは困難になりつつあるが、利上げ路線そのものは維持される」とみている。【浅川大樹】
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