田中琢哉氏(МUFG常務執行役員ウェルスマネジメントユニット長)
<幅広いニーズに対応する、オーダーメイド型の金融サービス「ウェルスマネジメント」。なぜ注目されるのか、その背景にある社会課題、顧客ニーズの多様化とは?>
前人未到の投打二刀流で活躍したかと思えば、今シーズンは本塁打と盗塁の同時量産で記録を更新。ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手は、野球界で新たな道を切り開いてきた。彼は三菱UFJフィナンシャル・グループ(МUFG)の一員である三菱UFJ銀行のブランドパートナーでもある。
МUFGもまた、日本で「ウェルスマネジメント」を確立させるべく、金融界で新たな道を切り開いてきた。だが、ウェルスマネジメントとは何なのか、なぜ重要なのか――。МUFG常務執行役員ウェルスマネジメントユニット長の田中琢哉氏に話を聞いた。
――ウェルスマネジメントとは、どのようなサービスか。
田中:富裕層が持つ資産を包括的に管理するサービスの総称です。富裕層向けにプライベートバンキングで提供していた海外送金や決済・貸付サービス等から派生したサービスで、ウェルスマネジメントは、専門的な資産運用や資産・事業の承継、M&A、不動産の売買・有効活用、資金調達など、より幅広いニーズに対応していくサービスと私たちは定義しています。
1980年代後半から外資系金融機関が日本市場へ本格的に進出、サービス展開するようになりました。その前後から、国内金融機関も参入をしましたが、日本ではなかなか定着には至りませんでした。
――日本で定着しなかったのはなぜか。海外と比較して、日本の富裕層にはどのような特徴があるのか。
田中:日本人は投資に消極的と言われますが、日本では長らくの間、デフレであったことも要因の1つにあると考えています。約2200兆円の日本の個人金融資産のうち50%程度が現預金と言われています。現預金水準の高さは資産形成への関心の低さを表しており、個人差はありますが、富裕層に限っても同様の傾向が見られます。
日本の富裕層は高齢者の割合が高く、セーフティネットも充実していることからも、自立的な資産形成の重要性に関する意識が醸成されにくかったと考えられます。
欧州の富裕層は産業革命や植民地時代を通じて資本を蓄えながら代々続いてきた家系が多く、アメリカでは独立以降、数多くの企業経営者が成功を収め新たな富裕層を生み出してきました。一方、日本の富裕層の起源は江戸時代の商人階級や明治維新後の財閥や資本家が中心と言われ、現在では富裕層の約3分の1が事業オーナーです。加えて、日本の贈与税・相続税は欧米と比べ高い水準にあります。そのため、「後継者不在による事業承継への不安、相続対策を金融機関に相談したい」というニーズも高く、この点は日本のウェルスマネジメントの特徴と言えます。
――昨今、ウェルスマネジメントが注目される理由とは。
田中:社会構造の変化により、金融機関に求めるニーズが多様化しているからでしょう。経営者の高齢化が進んだことで顕在化した後継者不足は、今や社会課題の1つとなっています。多くの経営者は、早急な後継者の育成、M&Aによる第三者への事業承継、親族間の相続対策、廃業......と、複雑な選択を迫られています。
その一方、若くして財を成す人も増えています。スタートアップの経営者など、従来の富裕層とは異なる価値観やビジネスモデルを形成するようになりました。お客さまにより、求める資産形成のプロセスや資産の守り方、将来への想いは千差万別です。そのため対話を繰り返しながら最適解を共に見つけていく、オーダーメイド型の金融サービスが重要な時代になりました。
――МUFGがウェルスマネジメントに取り組む意義をどう考えているか。
田中:私たちМUFGのウェルスマネジメントは、お客さまの事業、資産、想いを未来につなぐことを使命としています。МUFGの担当者がお客さま一人ひとりのゴールや人生設計を理解し、その実現に向け計画的かつ柔軟に進めていくには、デジタルテクノロジーを活用した情報収集と提案も不可欠です。そこでMUFGでは銀行、信託銀行、証券の幅広いネットワークと提携する米モルガン・スタンレーの知見を活用した、グループ横断の「MUFGウェルスマネジメントデジタルプラットフォーム」を構築しました。
ウェルスマネジメントは多くの領域での貢献が期待されていますが(上図参照)、MUFGの中期経営計画の3本柱である「成長戦略の進化」「社会課題の解決」「企業変革の加速」の中で言えば、少子高齢化社会における事業承継を筆頭に、特に社会課題の解決に直結しています。また、デジタルを積極活用し、グループ一体で付加価値の高いサービスを提供するこのビジネスモデルは、MUFGの企業変革にも価値をもたらすと信じています。
金融資産が100万ドルを超える富裕層が多い国・都市ランキングで日本は第3位です。世帯数・資産総額ともに増加傾向が続いており、マーケットのポテンシャルが大きいことからも、ウェルスマネジメント事業に注力すべきと考えます。
――今後大きなトレンドとなる「金利のある世界」において、ウェルスマネジメントが果たす役割とは。
田中:日本にとってデフレを脱却したことは歴史的な転換点であると言えます。借入コストやインフレに負けない資産の運用ニーズが高まる中、地政学リスクや気候変動リスクも顕在化し、変動する金融市場を勝ち抜くにはこれまで以上に知恵が必要になります。包括的な視点で資産の投資配分を考えられる人が有利になるのではないでしょうか。
ウェルスマネジメントの主なターゲットは富裕層ですが、そこで得た知見を広く一般に提供することも可能と考えます。なぜなら社会において、預金を含めたお客さまの資産形成、また金融リテラシー向上のための金融経済教育も金融機関の役割ですから。お客さま一人ひとりのプランニングをしっかりと受け止め、資産をまもり、ふやし、つなぐ。次世代をより良い未来につなぐことが、ウェルスマネジメントの役割だと考えています。
●問い合わせ先
株式会社 三菱UFJ銀行
田中琢哉(МUFG常務執行役員ウェルスマネジメントユニット長)
1991年、京都大学経済学部を卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行。1996年、米エモリー大学経営大学院修了。2017年、執行役員に就任。2023年より常務執行役員としてウェルスマネジメント事業を牽引している。
株式会社三菱UFJ銀行 登録金融機関:関東財務局長(登金)第5号 加入協会:日本証券業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会
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