企画の持ち込みは、断られてもめげないこと/pixabay
<企画の持ち込みを得意とする売れっ子ライターが経験からシェア。考慮したい「企画のサイズ感」とは>
ライターでコラムニストの佐藤友美氏は、作家として8冊の単著と3冊の共著を出版し、書籍ライターとして52冊のビジネス書や実用書の執筆に携わってきた。とりわけ出版社に企画を提案することが得意で、携わった63冊のうち29冊は持ち込み企画だったという。
ビジネスパーソンが「出版社から本を出す」ための方法を一から解説した『本を出したい』(CCCメディアハウス)より、企画で出版社を納得させるコツを取り上げる。
※全3回の第3回(第1回:自著をヒットさせてきたライターが語る「本を出したい」人が知っておきたいこと /第2回:ベテラン書籍ライターが「本を出したい」なら「100の格言」を書けばいいという理由【出版業界】)
◇ ◇ ◇うちの出版社向きの企画じゃない、とは?
私がファッション誌のライターを辞め、書籍ライター[編集部注:ビジネスパーソンやアーティスト、タレントなど、「その道のプロ」の視点を本にまとめる仕事]を目指したばかりの頃、ライター養成講座で知り合った編集者さんや、ライターの友人に紹介してもらった編集者さんに企画書を持ち込んでいました。
そのときに、何度か言われたのは、「これ、うちの出版社向きの企画じゃないと思うよ」という言葉です。「うち向きの企画じゃない」を詳しく聞くと、その答えは大きく2つに分かれました。
1 このジャンルはうちの出版社の得意分野ではない(扱っていない)
2 このテーマはうちの出版社で扱うサイズ感ではない
出版社には得意ジャンルがある
まずひとつめです。これは、私もファッション誌で仕事をしていたときはまったく知らなかったのですが、出版社には、それぞれ得意ジャンルの書籍があります。
たとえば、ビジネス書が得意な出版社、暮らしや健康などの実用書が得意な出版社、学習参考書が得意な出版社、タレント本などのエンタメ系が得意な出版社......など。そもそも書籍は扱っていない出版社もあります。
過去に二度、一社は100年、もう一社は50年の歴史を持つ老舗出版社で「その出版社初のビジネス書」を担当する経験がありました。どうしてそういうことになったかというと、どちらも雑誌の編集長さんと「この美容師さんの美容本ではなくビジネス書を出したい」と盛り上がったからです。
ファンの多い2人の書籍は、どちらも発売後数日で重版したのですが、普段そのジャンルを扱わない出版社でつくることの難しさを感じる機会にもなりました。
まず、その出版社にビジネス書の営業さんがいません。ビジネス書の読者に届くPR方法もノウハウがありません。もちろん、それがわかっていてチャレンジしたのですが、畑違いのジャンルに飛び込むのはやはり難しいものだと感じました。編集長肝入りの企画ですら難しいのですから、持ち込み企画であればなおさらです。
まず、あなたが持ち込みたい企画のジャンルが得意な出版社をリストアップしましょう。
単行本向きの企画、新書向きの企画
似たパターンで「さとゆみさん、これ、新書向きのテーマですよ。うち、新書のレーベルがないので無理です」と言われたこともあります。
一般的に、新書は一般書に比べて、時事的な課題や専門的な課題をわかりやすく入門書として提示するジャンルだと言われています。
面白いのが、一般書がビジネス書、実用書、自己啓発本、教養書......などと分けられるのに対して、新書は扱っている内容がビジネスでも教養でも実用でも、「新書は新書」です。書店でも一般書とは違う棚に並べられることがほとんどなので、新書のレーベルを持っていない出版社から新書は出ません。
このあたりの肌感覚は、私は編集者ほどはわかりません。しかし、その方のアドバイス通り、新書を扱っている出版社に持ち込んだところ、すんなりと企画会議を通りました。
売り込み先を変えると企画が通ることがある
「企画が悪いから通らない」ケースはもちろんあります。けれども「企画は良いけれど、売り込み先を間違っている」ことで、企画が通らないこともあります。
私は、断られたときはなるべく「どこを修正すれば出版の可能性があると思われますか?」と聞くようにしています。そして、「もし、ブラッシュアップして持ち込むとしたら、どこの出版社さんがいいと思いますか?」とも聞きます。
もちろん後者の質問は厚かましすぎるので、編集者さんとの関係で言えそうなときしか言いませんが、たいていみなさん親切に教えてくださいます。そこは、編集者さんのほうが圧倒的に相場観があるので、とてもありがたいアドバイスになります。
たった一人の編集者を口説けばいい
同じ編集部内ですら、打診する編集者さんによって、企画が通ったり通らなかったりすることもあります。
ある出版社の編集者さんに企画を持ち込みました。その人には「うーん、今、僕がいる部署ではこのタイプの書籍は出さないと思うんだよね」と言われました。お礼を言ってその場を立ち去った数日後、その方が所属する編集部の別の編集者さんと会う機会がありました。
「さとゆみさん、この間、うちの編集部に来てたんだって?」と言われたので、私は企画を持ち込んで断られたことをお話ししました。するとその編集者さんに、どんな企画? と聞かれたので内容を説明したら、「興味あるなあ。一度、著者さんと一緒に打ち合わせをしてみたい」と言われ、トントン拍子で出版が決まりました。
その書籍はその後、5刷まで重版しています。「この企画はうちでは難しい」と言った編集者さんと、「うちからこの本を出しましょう」と言った編集者さんは同じ編集部でデスクを並べて働く仲です。
何が言いたいかというと、企画が通るかどうかは、それくらい持ち込んだ編集者さんとの相性によるということです。読者ファーストが大前提とは言え、最初に口説かなくてはならないのは、たった一人の編集者です。
時の運?のようなものもある
そのとき興味を持っているテーマや、その編集部で進行している別の企画など、こちらからはあずかり知らないことが原因で、企画が通ったり通らなかったりすることもままあります。
それくらい、出版というのは〝水物〞だと感じます。ですから、一度のトライで諦めずにいろんな人に話を聞いてもらうのがよいと思います。
企画持ち込みをしたことがある人の話を聞くと、一度断られて意気消沈してしまったという人が多いようですが、ブラッシュアップをして別の出版社に持ち込むことも検討してみましょう。
ただし、同じ企画を同時並行で別の出版社(や編集者)で進めるのはマナー違反ですので、次の出版社に持ち込むのは企画がボツと言われてからにしましょう。
出版社によって「想定マーケットのサイズ」が違う
「このテーマはうちの出版社で扱うサイズ感ではない」と言われたケースについても解説します。
ある書籍の企画を持ち込んだときに、「その企画は、少し市場が小さいと思うんです。うちの出版社は、10万部を狙える企画じゃないと通りにくくて」と言われたことがあります。逆に、「うちは1万部を目指せる二匹目のどじょうしか狙いません(キリッ)」と、清々しく断られた出版社もあります。
10万部超えを狙う出版社であれば、読者数が少ないジャンルの本は出にくいです。同じお金の本でも、稼ぎ方や貯め方といった本の企画は通っても、個人年金の書籍となると、難しいかもしれません。これは、読者が存在するマーケットのサイズ感に関係します。
自分の企画のサイズを見極める
自分の本を出したいと思ったときには、自分が伝えたいと思っているコンテンツが、どのマーケットサイズのコンテンツであるかを見極める必要があります。そして、そのサイズ感の書籍の企画が通りやすい出版社であるかどうかを考えます。
お金に興味がある【Aゾーン】>資産運用に興味がある【Bゾーン】>個人年金の使い道に興味がある【Cゾーン】
Aゾーンのサイズ感の書籍づくりが得意な出版社もあれば、BゾーンやCゾーンの書籍づくりが得意な出版社もあります。
もちろん、マーケットのサイズが大きければよいというものではありません。そういったマーケットにはすでに多くの書籍がひしめきあっていますので、競争も厳しくなります。一方、マーケットのサイズが小さすぎれば、商売になりません。
しかし、BゾーンやCゾーンでも、そのマーケット内で多くの読者数を獲得できれば、Aゾーンの売れない書籍よりも部数が大きくなる可能性もあります。
◇ ◇ ◇佐藤友美(satoyumi)
ライター/コラムニスト 1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社勤務を経て文筆業に転向。日本初のヘアライターとして、ベストセラーとなった『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)や『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)、『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館)などを執筆。自著はすべて重版している。わかりやすい解説でテレビ・雑誌・講演などの出演オファーが絶えない。自身の著作のみならず、ビジネス書、実用書などの執筆・構成を手掛ける書籍ライターとして50冊以上の書籍の執筆に関わっている。特筆すべきは、自著・ライターとしての書籍63冊のうち29冊は持ち込み企画であることと、持ち込み企画のほうが重版率が高いこと。
近年は、日本で最も入塾倍率が高いと言われる「さとゆみビジネスライティングゼミ」を主宰。ライターだけではなく様々な職業のビジネスパーソンを「書ける人」に育てている。卒ゼミ生と運営するメディアCORECOLOR(コレカラ)の人気連載「編集者の時代」には、ベストセラー編集者が続々登場し、出版業界で話題を集めている。
『本を出したい』
佐藤友美[著]
CCCメディアハウス[刊]
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