イメージ写真=ゲッティ

 九州の企業が男性社員の育児休業(育休)取得拡大に取り組んでいる。男性の取得率公表が義務づけられている大手企業を中心に取得率100%に達する企業も増えている。一方、男性が育児を主体的に担ったり長期の育休を取ったりすることには課題も残る。【久野洋】

 かつては多くなかった男性の育休取得だが、ここ数年は大手企業を中心に育休推奨や義務化の動きが広がっている。厚生労働省が全国の事業所対象に実施した調査では、2023年度の男性の育休取得率は、23年10月時点で30・1%(女性は84・1%)で、22年10月時点から13ポイント増加した。

 期間は1~3カ月が28%だった一方、2週間未満も37・7%を占めた。国は25年までに育休取得率50%を目指しているが、企業によって取り組みや取得率にばらつきもみられる。

 九州・山口の企業が公表している23年度の男性社員の育休取得率では、九州電力▽福岡銀行▽西日本シティ銀行▽山口フィナンシャルグループ▽肥後銀行▽九電工――などが100%に達していた。また、西部ガス(92・3%)▽TOTO(73・2%)▽安川電機(56・6%)▽西日本鉄道(54・4%)――など地場大手企業は5割を超すケースが多い。

 肥後銀行は15年度時点で100%を達成したほか、福岡銀行などを傘下に持つ、ふくおかフィナンシャルグループは22年、男性に10日間の育休取得を義務化。九州電力も2週間以上の育休取得を推奨しており、企業としての「本気度」が数字に表れた形だ。

 育休制度はもともと女性社員が仕事と家庭の両立を図るために就職活動で重視していた。近年は男性も主体的に育児に関わる傾向が強まり、育休制度は、性別を問わず企業の働きやすさを測る材料として重要度を増している。

 長期の育休取得が容易ではない実態もある。九電では「職場の負担や上司の目が気になり長期の育休を取りにくい」との社員の声を受け、ベテラン社員の育児意識を高める孫の育児の休暇制度などを始めた。ただ、こうした取り組みは人員や資金力に余裕がある一部の企業にとどまっている。

 育児は、配偶者が里帰り出産するかどうかや、生まれる子のきょうだいの有無などで親にかかる負荷はさまざまだ。また、積水ハウスが子育て中の約9000人にアンケートした24年度版「育休白書」では女性の4割が配偶者を、本来の目的を果たさない「取るだけ育休」と評価しており、意識や家事能力にばらつきがあることも課題となっている。

 九電は男性の主体的な育児を促そうと、22年に社員向け父子手帳「ぱぱのて」を配布した。男女の意識差の解消のため、従来は男女別に開催していた育休者向けの「両立応援セミナー」や「父親学級」を、今年から「育キャリ応援セミナー」として一本化。男性の育休経験者を交えた座談会などを開いた。

 男性の育休取得では、企業の幹部から「接客の場で、子連れのお客様に対して男性も親身に動けるようになった」「いくつものタスクが同時発生する育児を経験することで、仕事の進め方も上手くなる」といった声が上がっており、「『休業』という言葉がよくない。能力を高めるという意味で、育休を留学のように評価してもよいのではないか」という経営者もいる。

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