西鉄電車教習所にある運転士用のシミュレーター=福岡県久留米市宮ノ陣5で2024年4月9日午後4時52分、下原知広撮影

 西日本鉄道(福岡市)の天神大牟田線が12日、1924年の開業から100年を迎えた。通勤・通学など1日当たり23万人超の移動を支えるのが列車の運転士たちだ。少子化などで人材確保が課題になる中で、公共交通を維持する模索が続いている。

 福岡県久留米市宮ノ陣の西鉄電車教習所は、全国に37カ所(2024年3月)ある運転士に必要な知識や技術を教える養成所の一つだ。西鉄電車の運転士を目指す社員はここで法律や安全などを学び、先輩運転士と列車に乗る実務を経て現場に出る。養成には計約9カ月かかる。

 教習所には西鉄電車を模した運転士、車掌用のシミュレーターやパンタグラフ、発電機などの機器がある。運転士用シミュレーターは、コンピューターグラフィックス(CG)で天神大牟田線を再現。運転時間帯や気象状況など、さまざまな運行条件が設定できる。線路への車進入などアクシデントも模擬体験が可能だ。

 記者(下原)もシミュレーターで運転に挑戦したが、アクセルやブレーキのハンドル操作は思うようにいかない。教師の田島敏之さん(61)が「運転士は、天候や車内の様子など状況に応じてブレーキのかけ方を変えている」と教えてくれた。

電車のパンタグラフについて説明する田島敏之さん=福岡県久留米市宮ノ陣5で2024年4月9日午後5時9分、下原知広撮影

 重視するのは安全教育だ。過去の重大事故などを振り返り、どうすれば防げたかを検討させる。運転士が酒気帯び状態で電車に乗務した自社の不祥事も教訓にしており、教師の池田光洋さん(64)は「教習生には繰り返し教える」と話す。

 課題は運転士の確保だ。天神大牟田線と、5月に開業100年となる貝塚線の運転士は、23年度に教習を受けた14人を含め計206人(24年4月1日)いるが、定年退職者に採用者数が追いついていない。

 運転士は20歳以上で3カ月以上の車掌経験が必要とされ、高校新卒の場合、入社から3年程度が必要になる。運転士にはこれまで、ほとんど高卒の採用者を充てていたが、近年は少子化や大学進学者の増加で高卒の採用が難しくなっている。

 このため20年度から大卒者、22年度からは中途採用者に、運転士を含む鉄道乗務職の採用対象を広げた。専門学校卒業生の採用にも力を入れている他、採用活動の範囲を東京や大阪に広げる。

 乗務員の採用を増やし、子育て中の乗務員が働きやすいような時短勤務にも取り組む。同社によると「運転士は完全に充足しているとはいえないが、足りずに困っている状況ではない」という。

 田中大一郎所長は「公共交通の持続可能性をどう担保するか大きな課題だ。社員が次の150年、200年を担う人材となるよう支えていきたい」と語った。【下原知広】

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