(ブルームバーグ):米共和党大統領候補のトランプ前大統領が掲げる外国製品への包括的な関税発動は、インフレ高進と成長低迷のリスクを再燃させ、株価の脅威となる可能性がある。ラザードのチーフ株式ストラテジスト、ロナルド・テンプル氏はこうみている。

「トランプ氏が唱えている関税政策について真剣に受け止めないのは危険だ」と同氏はインタビューで指摘。「インフレ、成長、ドル、金利、米金融政策、企業利益への影響はいずれもかなり大きい。スタグフレーション(景気停滞下の物価上昇)のような環境に陥れば、株式市場が上昇するとは考えにくい」と続けた。

かねて保護主義的な通商政策を提唱するトランプ氏は、一律10%の輸入関税と中国製品への関税強化を公約に掲げている。

トランプ氏の新関税政策はまるで増税-エコノミストが警告

ゴールドマン・サックス・グループのエコノミスト陣は、トランプ氏が返り咲きを果たした場合、関税がインフレを再燃させ、金利を130ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)押し上げる可能性が高いと分析している。

トランプ氏の関税案、FRBに5回追加利上げ促す可能性-ゴールドマン

トランプ政権時代のS&P500種と企業の1株利益

もっとも、トランプ政権時代に株価は値上がりした。外国製の鉄鋼・アルミニウムへの輸入関税による影響を、法人減税の追い風が相殺。S&P500種株価指数は関税が発動された2018年から新型コロナウイルス禍に伴う市場混乱までの2年間に20%余り上昇した。

これらの関税を維持、または引き上げたバイデン政権下では、2021年1月20日の就任以降に、S&P500種は46%値上がりしている。

テンプル氏は現在の経済状況を踏まえると、トランプ政権時代の経験を元に取引戦略を策定することは難しくなっていると話す。インフレは鈍化しているとはいえ、米金融当局の目標をなお上回っており、マクロ経済データの弱含みはリセッション(景気後退)懸念を高めている。

「過去の選挙では、経済的には大きな影響はないから、あまり睡眠を削るようなことはしないでほしいというのが顧客へのアドバイスだった」とテンプル氏。だが「今回は違う」という。

「トランプ政権1期目で、輸入品に適用された関税率は平均で1.5%から3%に上昇した。トランプ氏は目下、これを20%近くまで引き上げると話している。これは大きな問題だ」と述べる。

民主党大統領候補のハリス副大統領が勝利した場合については、経済への悪影響はおそらくないだろうとテンプル氏は予想。共和党が上院の主導権を握り、税制を中心にハリス氏が掲げる政策提案の多くを薄めるとみているためだ。

半面、トランプ氏の勝利なら、投資家は高関税下での投資戦略について練り直しが必要になるという。

「さまざまな企業のサプライチェーンについて、どこに弱点があるのかを特定することが重要になる。中国からの輸入にどれだけ依存しているだろうか」と述べた。

またトランプ氏復権なら、S&P500種全体が調整するのではなく、セクターローテーションが起こるというのがテンプル氏の見立てだ。その上で「最も明確なトランプトレードは金融、エネルギー、ヘルスケアの一角。一方で、敗者は世界に広範囲なサプライチェーンを持つ企業だ」とし、生活必需品やインフラセクターにも妙味があると付け加えた。

原題:Trump Tariff Threat Bodes Ill for Stocks, Lazard Strategist Says(抜粋)

--取材協力:Jeremy Herron、Esha Dey.

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