現在宇宙空間には、役目を終えた人工衛星やロケットの残骸など、いわゆる宇宙ゴミが4万個以上あるといわれている。その宇宙ゴミを除去する技術を世界で初めて開発したアストロスケールホールディングスの岡田社長に話を聞いた。

秒速7~8kmの「宇宙ゴミ」 世界初の除去技術とは

使われなくなってしまった人工衛星や打ち上げたロケットの残骸、いわゆる宇宙ゴミ。ESA(欧州宇宙機関)によると、宇宙空間を漂う10㎝以上の宇宙ゴミは約4万500個に上ると推定されている。人工衛星などに衝突すれば、我々の生活に支障が出たり大事故に繋がる恐れがあり、問題となっている。

2021年には、ロシアがミサイルで人工衛星の破壊実験を行い「追跡可能な破片だけで1500個。さらに小さな破片は数十万個も散らばった。この事態を受け、国際宇宙ステーションの搭乗員は一時、繋ぎとめられている宇宙船内に退避する事態に見舞われた。そして2024年6月にもロシアの使用済みの人工衛星が分解し、同じく搭乗員が一時退避することになった。

秒速7~8kmで移動する宇宙ゴミ。回収し除去することは、これまで困難とされていた。その宇宙ゴミを除去する技術を世界で初めて開発した、アストロスケールホールディングスの岡田光信社長に、宇宙ビジネスの可能性・未来について聞いた。

「アストロスケール」はどんな会社? 創業のきっかけは?

――なぜ宇宙ゴミに注目して、起業したのか。

アストロスケールホールディングス 岡田光信社長:
宇宙の学会に3つほど出て、何がホットなトピックなんだろうと思い、新型ロケットなのか、月探査なのかと思って行ったら、「スペースデブリ(宇宙ゴミ)問題」というのを知った。決してメジャーなトピックではなかったが、(宇宙ゴミで)いつか宇宙は使えなくなると分かっていた、誰も解決策を持っていないというのを知った。今でも覚えているが、2013年の4月下旬だった。

――人生かけてやってみる価値があるんじゃないかと?

アストロスケールホールディングス 岡田光信社長:
それを知って1週間後につくったのが、アストロスケール。「これは自分で掃除をしよう」と。

――起業してから11年。2024年は東証に上場したが、宇宙関連ビジネスで日本は出遅れている面も指摘されているが、世界的に評価されている実感は?

アストロスケールホールディングス 岡田光信社長:
地球の周りを秒速7~8km、新幹線の100倍ぐらいの速さで、いろんな方向に飛んでいる物体に接近して捕まえるということをやる。これは誰もやったことがなく我々が世界で初めて成功している。そういう技術がある我々に「宇宙を持続利用にしていこうというミッション」に対する期待が、本当に高い。

2024年7月、宇宙ゴミ観測用として打ち上げられたアストロスケールの衛星が捉えた映像。映し出されていたのは、2009年に打ち上げられた日本の「H2A ロケット」の上段部分。50mの距離を保ちながら宇宙ゴミの周りを回って撮影することに成功した。

アストロスケールホールディングス 岡田光信社長:
こちらにあるのは、いま宇宙を飛んでいる「ADRAS-J」という衛星の小型の模型(実物の3分の1サイズ)。H2Aロケット上段を接近・捕獲。世界で初めて本物のデブリに接近して観測をするというミッション。

――詳しく写真を撮るといろんなことがわかったのか。

アストロスケールホールディングス 岡田光信社長:
宇宙業界がいつも議論してたのは、宇宙ゴミはどう回転しているのか。金属や繊維でできた機体がどういうふうに劣化しているのかなどいろんな疑問があった。いろんな論文が出ていたが、写真と動画も撮って答えが出た。

――今の状態を知らないことには捕まえられない。

アストロスケールホールディングス 岡田光信社長:
そうです。例えば捕まえようと思った口(捕獲部分)が壊れていたら捕まえられない。回転がすごく予想外のことをしていたらそれに合わせたような捕獲をしなければいけない。まず行ってみて、ゴミを観測する。今回帰ってくるが、次はまた同じものに近づいて今度は掃除をする。

宇宙ゴミを除去するためには、宇宙ゴミへの「接近」「捕獲」そして「除去」。3つのステップがある。

アストロスケールホールディングス 岡田光信社長:
宇宙のゴミ(スペースデブリ)を掃除するには、どうやって捕まえるのか聞かれるが、実は一番難しいのは「接近」。ゴミが飛んでいる中で、最初は軌道も形も違うものをだんだん合わせて真後ろに近づいていく。これが本当に難しい。宇宙ゴミは「位置情報を出さない」。勝手に地球の周りを飛んでいる状態で「相手と通信もできない」「勝手に回転している」。(宇宙ゴミ)に近づいてくると(捕獲する)衛星と通信できるわけではないので、衛星に自動的に判断させなければならない。なので常にセンサーで見ながら距離を保ちながら、相対静止=相対的に止まっている状態を作らなければならず、それがまた難しい。

そして、接近した後はどのように捕獲するのか?

アストロスケールホールディングス 岡田光信社長:
今度はロボットアームで捕まえる。「手」みたいなものをもう作っている。

アストロスケールは8月20日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)とロボットアームを使った宇宙ゴミ除去の実証事業を契約。将来は打ち上げ前の人工衛星に、事前に金属製のドッキングプレートを装着。磁力による宇宙ゴミの捕獲が可能になるという。

実際に模擬用の宇宙ゴミを使った「磁力による捕獲」の実証実験にも成功している。そして最後は捕獲した宇宙ゴミの「除去」。

――捕まえて放り投げるのか。

アストロスケールホールディングス 岡田光信社長:
宇宙で放り投げようと思うとただその場で回転するだけになる。だからどうするかというと、姿勢を整えた後に、飛んでいる方向に対してブレーキをかけていく。今は遠心力と重力がつり合って回っているが、重力の方が強くなっていき、だんだん高度を落としていく。高度を低くすると、大気抵抗などがあり、またどんどん勝手に高度が下がっていくので最終的に大気圏で燃やす。

「宇宙ゴミ」懸念される危険性。我々の生活に多大な影響も…

――除去回収の意義は分かるが、政府や国際機関の仕事だと考えてしまう。民間企業として「ビジネスになる」と思った理由は?

アストロスケールホールディングス 岡田光信社長:
なぜなら課題が明確だから。宇宙は持続利用不可能であると。時間軸はわからないが、誰かが解決しなければならない。これは取り組む価値があり、今取り組めば、ひょっとしたら先頭に立てるかもしれないと思った。

――実際見えないのでイメージしにくいが、放っておくと近い将来、新しい衛星が打ち上げられないぐらい宇宙ゴミでいっぱいになるのか?

アストロスケールホールディングス 岡田光信社長:
既にそういうことが起きている。今はデブリ(宇宙ゴミ)が近づいてくると衛星には警報が出る仕組みがグローバルにある。警報がずっと鳴っていてみんな逃げている。よけるために燃料を吹いてよけて(元の軌道に)戻る。衛星というのは燃料が尽きたら終わり。燃料を吹かせるというのは物凄くコストの高い行為で、衛星の寿命を短くする。リスクを下げてリターンを上げなけれなならない。それに必要なのが、「接近」して「捕獲」する技術。
それができると、「燃料を補給」したり「場所を移動」してあげたり、最後は「修理」や「簡単なコンポーネント(部品)交換」ができるようになってくる。

――衛星による宇宙の利用は今後ますます増えていくのか。

アストロスケールホールディングス 岡田光信社長:
いま現在だけでも「交通管制(船・飛行機・自動車)」「天気予報」「放送・通信」。オリンピックを生で見られるのは衛星があるから。他に「災害監視」「安全保障」も全部衛星。なので、どれだけバラ色の未来を語っても、小さな破片のゴミがバーンと大きいデブリ(宇宙ゴミ)に当たって、また破砕して連鎖反応的な仕事を起こすだけで世界は1960年代戻ってしまう。

――危機管理においてもゴミは早く取り除かないと駄目なのか。

アストロスケールホールディングス 岡田光信社長:
いち早くやらなくてはいけないので、我々は焦っている。本当に焦っていて、我々が本当に頑張らないと間に合わないのではないかと思っているので、チーム全員で頑張っていきたい。

増え続ける「宇宙ゴミ」 除去に挑む民間企業

どれぐらいのゴミがあるのか。ESA(欧州宇宙機構)が公表している宇宙ゴミの数。「ロケットやその破片」「人工衛星やその破片」など、2023年は約3万5000個となっており、2024年8月時点の最新データでは4万500個まで加速度的に増えている。今でも衛星がゴミを避けている状態だが、衛星の打ち上げの数は2022年で2300機にも及び、10年で11倍も増えている。

衛星をどんどん打ち上げることだけが今までのあり方だったが、アストロスケールはこの問題に取り組むビジネスを考えている。まず「ロボットアームによるロケット上段などの残骸除去」さらに「磁力を使った衛星などの除去」他には「宇宙状況の把握(衛星の状態や宇宙ゴミの確認)」「衛星の寿命延長・メンテナンス(衛星への燃料補給など)」といった事業がある。

明星大学経営学部教授 細川昌彦氏:
本質はグローバルな公共事業。それを民間企業でやるためには、どうやって儲けていくか、収益を上げていかなければならない。これから先、大きな課題が2つある。一つは「お客さんは誰か」。NASAや国際機関からの資金など「BtoG」。「BtoC」ではなく、公的機関、G (Government)の方。そのお客さんがどれだけ集められるか。それから2つ目に大事なことは、ゴミ除去の国際ルールをちゃんと作らないと、なかなか解決しない。そのルール作り、そこに主導権を発揮できるか。実はこの2つはとても大事。一企業だけではなかなか辛いところがあると思うので、日本政府も応援してあげないといけない。

(BS-TBS『Bizスクエア』 9月7日放送より)

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