空港施設にとってJALやANAは大株主でもあり大口取引先でもある(撮影:上2つの写真は尾形文繁、下は編集部)

国交省OBの人事介入問題で昨年注目を浴びた東証プライム上場企業の「空港施設」。6月に開かれる見込みの定時株主総会は、2年連続で荒れ模様になるかもしれない。

空港施設は羽田空港周辺で空港関連施設やオフィスビルの賃貸、冷暖房の供給などを行っている。その同社の株主総会に向けて、アクティビスト(物言う株主)が4月22日に株主提案を行ったことが東洋経済の取材でわかった。

株主提案に踏み切ったのは香港の投資会社であるリム・アドバイザーズだ。リムはこれまでもテレビ東京ホールディングスや日本たばこ産業(JT)などにも株主提案を出してきた。

副社長はJALとANAの出身者

リムの提案内容は①日本航空(JAL)とANAホールディングスからの「天下り」受け入れの禁止、②政策保有株の売却と保有目的の検証、③自己株買いの実行、④株主還元の強化、⑤個別の役員報酬の開示――とみられる。

業界関係者からは「空港施設についてしっかり調べている提案でまともな内容だ」という評価が聞こえてくる。

中でも注目のポイントは天下りの受け入れ禁止を求めている点だ。大株主であり、大口の取引先でもあるJALとANAの出身者が副社長に就任していることを問題視し、空港施設にさらなるガバナンス改革を迫っている。

空港施設では近年、ガバナンス問題が噴出している。先述したように、国交省OBの人事介入が大きな騒動となったことは記憶に新しい。

2022年12月に国交省の元事務次官が空港施設を訪れ、当時の会長と社長の退任と副社長の社長昇格を要求した。副社長は国交省OBで東京航空局長を務めた人物だった。

空港施設側は社長は指名委員会で選考することになっていると説明し、元事務次官の申し入れを拒否した。この顛末が2023年3月に明るみに出て、副社長は4月に辞任した。

波乱は続く。6月の空港施設の株主総会で社長解任劇につながった。当時社長だった乘田(のりた)俊明氏が75%を超える圧倒的な反対多数で再任が否決されたのだ。

国交省OBは昨年の騒動を経てゼロに

大株主のうちANAホールディングスは、「人心を一新すべき」と反対票を投じたことを明らかにしている。JALは明確にしなかったが、再任に反対していたことがわかっている。
(詳細は2023年6月30日配信『空港施設の「社長解任劇」、JALがつけた落とし前』に)

実質的に解任となった乘田氏は1982年にJALに入社。労務や経営企画などを渡り歩き、2015年からは取締役専務を務めた。2017年に空港施設の副社長となり、2021年からは社長だった。つまりJALは、自社OB社長のクビを切ったことになる。

新体制では、取締役常務だった田村滋朗氏がプロパーで初となる社長に就いた。国交省OBの数も1970年の同社設立以来初となるゼロになった。一見するとガバナンス体制が強化されたかに感じる。

しかしリムは、大口取引先でもあるJALとANAの出身者が役員に天下りしていることにも噛みついた。「利益相反」を生んではいないかと主張しているようだ。実際、コロナ禍ではJALやANA向けに賃貸用不動産の賃料や冷暖房料金の減免をしていた。

東洋経済の取材に空港施設は「現時点ではお答えできることはありません」と述べ、リムの提案への賛否については明かさなかった。なおリムは、「個別の投資先に関してはお答えできない」としている。

「持ちつ持たれつ」を株主はどう判断?

天下り批判や資本効率の改善は機関投資家の支持を得やすい傾向にあるが、提案内容の可決へのハードルは高い。大株主のJALとANAホールディングスが各21%(議決権保有ベース)を保有しているからだ。

また天下りを受け入れているからこそ、安定して空港施設の不動産に入居してくれる。そういう「持ちつ持たれつ」の関係性があることも否定できない。

可決は容易ではないとはいえ、空港施設ひいては航空業界のガバナンスに一石を投じる株主提案となることは間違いない。個人株主などからどれほどの賛成を得られるか、注目が集まる。

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