◆鳥取三津子 日本航空 代表取締役社長

■「ダイナミックなオーケストラが好きです。非常に寝つきが悪くなりました(笑)」

Q:社長という立場、社長であることに馴染んできましたか?日々の生活や意識に変化は?
A:どうですかね、ちょっとまだ馴染んでいないですね。やはり簡単に出歩けなくなりました(笑)
Q:社長になられてから自分の時間というのは?
A:これまでも結構忙しかったので。今のところそんなに極端に変わったわけではないです。去年と同じくらいでしょうか。いまのところですけど。
Q:たまに自分の時間ができたときはどんなことを?
A:クラシックが好きですので音楽を聞いたり。散歩しながら聞いたりしています。
Q:例えば?
A:オーケストラが好きです。ダイナミックなオーケストラが。
Q:どんなことを考えていらっしゃるんですか?
A:音楽を聞いているときは無心です。
Q:もう仕事と離れて?
A:そうですね、浸っていますので。聞き入っていますので。無心で聞いている感じです。お散歩しているといろいろなものが目に入ってきますので、つい考え事をすることありますが。基本的には何も考えずに聞ければいいなと思っている感じでしょうか(笑)
Q:意識の切り替えはできている?
A:がらっとこれまでと責任分野が変わりましたので。何を考えるにしてもその背負っているものの重さといいますか、そういうものが常に背中にかかっているなと思いますので、非常に寝つきが悪くなりました(笑)

■「(社長就任の話に)もう椅子から転げ落ちそうになりました。本当なんです」
「私にできるのだろうかということをひたすら自問自答していました」

Q:社長に就任された経緯を聞きたいです。赤坂前社長(現会長)から鳥取さんに対していつどのようなシチュエーションでどんな言葉をかけられて、どんなふうに思われてどう決断してというところをお伺いできれば
A:去年12月の暮れに近い頃に呼ばれて告げられましたが、かなり意外でしたので動揺いたしましたね。
Q:どんなふうに、どんな言葉を?
A:私の後をお願いしたいということで。
Q:その瞬間はどんな感じでしたか?
A:もう、椅子から転げ落ちそうになりました(笑)本当なんです。
Q:本当ですか!?って
A:そうですね、どちらかというと驚いて言葉が出なかったということかもしれないですね。
Q:その場では即答できなかった?
A:しばし悩んで。それで最終的にはお受けしますということをお伝えしました。
Q:何日か経ってからですか。
A:そうですね。しばらくという言葉にしておきたいと思います。しばらく悩みました。
Q:受けるときはどういうふうに答えたんですか?決断の決め手、最後決めた瞬間っていうのは?
A:やるしかないだろうと思って。それを口にした瞬間には、もう「やります」と言った瞬間にはすぐに腹が決まったといいますか。そこは本当に不思議なんですけれど、結構悩んだ割には口に出した瞬間には突然人が変わったように。もう「やる、やる」ということで。やりますとお伝えしました。
Q:決断をしてやるとなったときに、自分は何を一番しなきゃいけない、何をするんだっていうふうに思われたんですか?
A:ちょうどコロナも終了して、これからは本当に成長していくというフェーズに入ってきましたので。せっかく上向きになっているこの状況をしっかりとと。漠然としていて恐縮なのですが、成長に繋げていく重要な役割をいただいたなと思いました。Q:社長をするということは他に出せないわけですよね、しばらく。その間は自分の中でどのように?
A:それは…私にできるのだろうかということをひたすら自問自答していました。やはり大企業ですし。私がやっていいのか、できるのか、いやできないだろう。いや、やるしかないのか。それをひたすら繰り返し自問自答していました。

■「リアリティを持って自分で把握できるといいいますか、把握して対策につなげられるというところが一番大きい」

Q:現場出身者(前社長は整備、その前は機長)がトップに就くことが続いています。そういう方がトップに立つことの良さや難しさ。どういうふうにお考えですか?
A:現場を知っているということは…やはり航空会社ですのでいろいろなイベントリスクが定期的にこれまでも起こってきました。そういう意味ではリスクマネジメントというのは非常に重要な役割だと思っています。安全も含めて。それをリアリティを持って自分で把握できるといいいますか、把握して対策につなげられるというところが一番大きいかなと思います。いろいろな施策が当然ながら行われていくときに、やはり机上論ではなかなか難しくて。実際に現場を知っているからこそ、お客様を知っているからこそ、本当にお客様が何を望んでいらっしゃるのか、現場の社員がどういう気持ちで仕事をしているのか、そういったところを自分で実感できながら話が進められるとところは大きいかなと思います。
Q:皆さんの仕事の中にあって安全というのはやはりことさら大きい?
A:はい。私の中では一番大きいです。自分の中で占めています。一番大きいと思います。安全がなければそもそも航空会社は存在できないと思いますし、他の事業もまず安全がしっかりしてないと成立しないと。非常に重要だと思います。

■1月2日の事故 「終わってからの方が…ちょっとつらい部分もあるんじゃないか」
「ほんとに良くやったねということを伝えたい」

Q:1月2日に日航機と海保機が衝突した痛ましい事故について。あのとき乗り合わせた運航乗務員や客室乗務員は今どういう状況なのでしょうか?
A:当時は無我夢中で使命感を持ってやってくれたと思います。逆に終わってからの方がいろいろなことを…こんなことができたんじゃないか、みたいなことを考えてちょっとつらい部分もあるんじゃないかなと思います。
Q:会うタイミングもあるかもしれませんが?
A:そうですね。会えれば「ほんとに良くやったね」ということを伝えたいなと思っています。
Q:会社として、今回の事故を今後にどういうふうに生かさなければいけないっていうふうにお考えですか。
A:そうですね。細かい原因ですとかはまだ運輸安全委員会の方で調査中ですので。どういうものが生かされるべきなのかという詳細はお伝えできないんですけれども。ただ、本当に無事に全員脱出ができた素晴らしい事例だったとは思いますが100点ということはきっとないでしょうし。何か生かせるものというのは当然振り返った後には出てくると思いますので。そこはこれまでもそうですが、これからの訓練に生かしたりですとか。例えば安全ビデオもそうなんですけれども、もっとステップアップ、進化できることがあれば、それは教訓をしっかり生かしていきたいなと思っています。

■「普通に女性も社長になれるような、そういう世界が早期に来ることを望んでいます」
「覚悟を持って臨みたい」

Q:女性として初めてトップに就任することが話題になったが心境は。プライム市場(東京証券取引所)で女性の社長は1%にも満たないという現状については?
A:自分自身は女性だからという特別な感情はほとんど持っていません。一人格として(任に)あたっていきたいと思っています。それから、できれば早い段階で「女性の社長ですね」と取り立てて言われることがないような状況になることを望んでいます。普通に女性も社長になれるような、そういう世界が早期に来ることを望んでいます。
Q:JALという大企業。気負いや心配、プレッシャーなどはないですか?
A:それはもちろん。大きな重責を担ったなという自覚は持っていますので。そこは覚悟を持って臨みたいなと思っています。

■「今年度は確実に(女性管理職比率)30%を達成すると思います」
「前後でキャリアが途切れることがないように仕組みとしてだいぶ整えてきた」

Q:多様性への取り組みについて。女性の管理職比率の目標を2025年3月末までに30%としています。経団連の目標よりも先んじて達成するという目標を掲げていますが、進捗と達成の見通しは?
A:もう既に昨年度末の段階でも、30%にわずかにいかなかったですけれどもほぼ29%台を達成しています。今年度は確実に30%を達成すると思いますし、今後も少しでも多く管理職に進んでくれるといいなと思っています。
Q:30%を達成するのに苦戦している企業が多いと思いますがJALで、しかも2025年末を前倒しして2024年に達成できそうだというのはどういった理由があるのでしょうか?
A:そうですね。やはり女性はライフイベントが当然ありますので。そうしたライフイベントを経て戻ってくるときに戻りやすい仕組みというのは非常に大切だと思っていますので。前後でキャリアが途切れることがないようにという。ここは仕組みとしてだいぶ整えてきましたので、復帰する方が非常に多いというのはそこも大きいかなと思います。
Q:その仕組みは具体的にどういったものが?
A:例えばライフイベントの前に積んだキャリアを一定の期間があってもそのまま踏襲できるようなことですとか。あとはお子さんがいたりしても短時間勤務をいくつかご用意したりとか。それぞれの生活に合ったチョイスができるような仕組みを整えてきました。
Q:復帰してもなかなか管理職になるのは難しいとか、私ではちょっとできないみたいな声もよく聞きますが、そうしたところをうまくされている要因は?
A:そうですね、会社としてもやはり(女性)管理職を30%に、というのをできれば推進していきたいという気持ちを持っているので当然男性の理解もあると思いますし。例えば私は前々年度まで客室本部にいましたけれど、最初から、年度の初めから管理職になるためにどうやっていこうかということをお互いに話しながら、ちゃんとキャリアを一緒に考えながらやっていくというようなことも結構丁寧に進めていますので。本人にそういう意識も醸成されていくのかなと思っています。

■男性の客室乗務員「上限などは設けていません。是々非々で選ばせていただいている」

Q:客室乗務員の多様性について。日系の航空会社は女性の客室乗務員の割合が非常に多いが、今後男性の客室乗務員を増やしていく方針は?
A:そうですね、実際のところ徐々に増えていまして。特に上限などは設けていませんので。是々非々で選ばせていただいておりますし、増えてくることを私どもも願っております。
Q:何%ぐらいに増やしたいというのは?
A:特にそういう数値目標などは持っていませんが、男性の皆さんにも客室乗務員という仕事を知っていただいて、いい仕事だなと思っていただけるように私達ももっとアピールしていきたいと思っています。特にどこまで伸ばしたいという数字目標は持っていないです。

鳥取美津子(1964年12月31日生まれ)
1985年 東亜国内航空(のちの日本エアシステム)に客室乗務員として入社
2019年 客室安全推進部部長
2020年 執行役員 客室本部長
2022年 常務執行役員 客室本部長
2023年4月 専務執行役員 カスタマー・エクスペリエンス本部長
2023年6月 代表取締役専務執行役員 カスタマー・エクスペリエンス本部長、グループCOO(最高顧客責任者)
2024年4月 代表取締役社長

聞き手:経済部(進藤潤耶/橋岡可絵)

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