中国の製造業に元気がない(中国江西省北部、九江市の電化製品会社の生産ラインで働く労働者たち)humphery -shutterstock-

<中国の製造業の急成長に息切れが見られる。一体何が起きているのか。それを理解するには、日本の製造業がたどった道のりが参考になるかもしれない>

中国の過剰生産能力に対する懸念が世界中で高まっている。無理もない。中国製品は世界の製造業の輸出の5分の1、付加価値輸出のほぼ3分の1を占めるのだから。

だが最近、その中国の製造業に衰退の兆しが見られる。一体何が起きているのか。それを理解するには、日本の製造業がたどった道のりが参考になるかもしれない。


第2次大戦後の日本の製造業の急成長は、巨大なアメリカ市場に支えられていた。

ところが1985年のプラザ合意で、円高ドル安の誘導が決まり、日本製品の輸出が打撃を受けると、少子高齢化と労働力人口の減少も手伝い、日本の製造業は低迷し始めた。アメリカの輸入に占める日本製品の割合は85年は22%だったが、2022年には5%まで落ち込んだ。

ここ数十年の中国の製造業の猛烈な成長は、かつての日本以上にアメリカ市場に支えられてきた。その一方で、01〜18年の中国によるアメリカ製品の輸入総額は、中国製品の対米輸出の23%程度と、著しい貿易不均衡が生じることになった。

その大きな原因として、1980年から35年間続いた中国の一人っ子政策が挙げられる。親は子供一人では老後に不安があるから貯蓄に励まざるを得ず、消費が抑制された。それでも政府は内需拡大よりも製造業の支援にばかり力を入れてきたから、過剰生産能力は一向に解消されない。

内需が弱いことを考えると、中国が過剰生産能力を削減し、さらに十分な雇用を創出する(現在約1億人が仕事にあぶれているとされる)ためには莫大な経常黒字を維持するしかない。つまり、大量の中国製品をアメリカに輸出し続けるのだ。

実際、アメリカの輸入に占める中国製品の割合は1985年は1%だったが、2017年には22%に達した。

中国の製造業の急成長は、アメリカの製造業の衰退の一因となり、グローバル化と、それを推し進めた「政治エリート」に対する大衆の不満へとつながった。それは政治の素人だったドナルド・トランプが、16年の米大統領選に勝利する一因にもなった。

その意味では中国の一人っ子政策は、間接的にだが、アメリカの政治風景を変えたとも言える。そして今度は、アメリカの政治が中国経済を変えようとしている。

トランプが18年に発表した追加関税に始まる中国たたきは、バイデン大統領の下で激化し、24年上半期のアメリカの輸入に占める中国製品の割合は12.7%まで落ち込んだ。

このためアメリカの関税障壁を避けるべく、製造拠点を中国からベトナムやメキシコに移すメーカーも出てきた。かつての日本で起きたように、これはより幅広い企業の海外流出の前兆かもしれない。

ほかにも2つの点で、中国の製造業は日本に似てきている。

まず、労働力人口の急速な減少と高齢化だ。中国の製造業の労働力人口は出稼ぎ労働者が80%を占めるが、その平均年齢は08年の34歳から、23年には43歳まで上昇している。同時期、50歳以上の割合は11%から31%に拡大した。人手不足で閉鎖に追い込まれた工場もある。

第2に、サービス業が製造業を圧倒しそうだ。政府が国民の可処分所得を増やそうとするなか、中国製品よりもアメリカ製品への需要が高まるだろう。製造業からサービス業への転職者が増え、大卒の若者もサービス業に就職する割合が高まるだろう。


こうして起こる中国製造業の衰退は、日本ほどのハイペースでは進まないかもしれない。中国の国内市場は巨大だし、AI(人工知能)やロボット工学など生産性を高める技術に莫大な投資をしている。

それでも衰退そのものは避けられないし、逆戻りもあり得ないだろう。

©Project Syndicate


易富賢(イー・フーシェン)
YI FUXIAN
米ウィスコンシン大学マディソン校の人口動態学者。中国の一人っ子政策を批判する著書『空っぽの巣の大国』を2007年に発刊するが、中国では13年まで発禁となった。

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