(ブルームバーグ):日本製鉄の森高弘副会長兼副社長は、中国からの鉄鋼輸出がさらに増える懸念が高まっていることを受け、日本政府に対し反ダンピング(不当廉売)関税措置などの防衛策を講じるよう業界団体を通じて働きかけを行っていると明らかにした。

森氏は27日の都内でのインタビューで、過剰な鉄鋼生産能力を有する中国の景気後退に伴い、既に世界の鉄鋼貿易の半分に当たる年間1億トン規模の同国からの輸出が一層増える可能性があると述べた。米国や欧州、韓国など各国が反ダンピング関税などを課す中、「やっていないのは日本だけとなると、そこへなだれ込んでくる」との見方を示した。

日本製鉄の森副会長兼副社長(27日、都内)

森氏は、世界中の貿易で取引される鉄鋼のほとんどが中国勢になる事態は「なんとか避けなくてはいけないし、日本のマーケットを守るという意味でも国は通商政策を真面目に考えないといけない」と述べた。中国からの鉄鋼輸出の脅威で日本は「危機的な状況」にあると働きかけを通じて政府に理解してもらった上で、必要な措置を講じてもらいたいと続けた。

中国では不動産の低迷などで内需が冷え込んでおり、世界最大の鉄鋼メーカーである中国宝武鋼鉄集団の経営トップはこのほど、中国の鉄鋼業界は2008年や15年に見舞われた危機よりも悪い状況に直面していると警鐘を鳴らした。自国産業を守るため各国では関税引き上げなどの動きが広がっており、日本が今後追随するかが注目される。

中国の鉄鋼過剰、世界揺るがす-業界全体が窮地に陥る恐れ

日鉄は海外市況や国内鋼材需要の低迷などを受け「未曽有の厳しい経営環境」だとして、今期(25年3月期)事業利益は7000億円と前期比約2割減となると見込む。

副大統領候補と会話

一方、注目を集める米鉄鋼大手USスチールの買収を巡っては、共和党候補のトランプ前大統領や同社が本社を置くペンシルベニア州のシャピロ知事が反対の立場を表明しているほか、バイデン大統領も否定的な考えを示すなど逆風が吹いている。

森氏は同案件は安全保障や独占禁止法の観点などからも問題はなく、大統領選の年と重なっていなければ「とうの昔にもうクローズしていると思う」と語った。11月の選挙後は政治的影響が弱まるとし、年内の買収実現は可能との考えを改めて示した。

森氏は民主党副大統領候補のウォルズ・ミネソタ州知事とはUSスチールの鉄鉱石ペレット工場の開所式に出席した際に話す機会があり、同知事はUSスチール買収に「極めてポジティブ」で、投資を応援するとの発言があったと述べた。その後に副大統領候補になったウォルズ氏が今後バイデン大統領の立場を踏襲する可能性はあるとした上で、「根っこはそういうプロビジネスな方だ」と評した。

森氏のその他の主な発言:

  • 資産圧縮については今期予定する300億円からの上積みに向け政策保有株の売却が「大きな候補になる」
    • 過去10年程度の間に銘柄数は大幅に減少したが、株価上昇に伴い依然数千億円の保有分があり、相手側との合意ができ次第売却を行っていく
  • 中国では現地企業が自動車向けの高級鋼を生産できる状況になり日鉄の中国に進出した当初の目的はおおむね達成したと判断したことなどから中国の宝山鋼鉄との合弁解消を決断
    • 日鉄が持つ中国の他の合弁事業については今後その会社の役割やマーケットの状況などを踏まえ個別に判断をしていくが、大きな構図としては中国は投資を拡大していく市場ではなく、米国・インド・アセアンに集中していく

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