上海の港は現在世界一のコンテナ貨物量を誇る IN PICTURES LTD.ーCORBIS/GETTY IMAGES

<中国の輸出はなぜ通貨の上昇やアメリカの保護主義を物ともせずに増え続けたのだろうか。輸出補助金のせいか、それともEVなどの技術革新のせいなのか>

中国の貿易相手国がまたもや「不公正」な貿易慣行にいら立っている。焦点は中国が特に電気自動車(EV)などの新興分野で過剰生産した製品を安く輸出し、欧米の産業を損なおうとしているとの懸念だ。

だが各国は報復措置に訴える前に、輸出超大国中国の不可解なまでに強いレジリエンス(回復力)を理解するのが肝要だ。相手国が取引を規制し是正措置を講じても、中国の輸出シェアの拡大は止まらない。


中国の経済成長に貿易が果たした役割を数字で振り返ろう。1980年代半ばから2008年の世界金融危機までに、GDPに輸入が占める割合は14%から33%に拡大した。同時に経常収支(輸出超過額)はGDP比4%の赤字から10%の黒字に転じた。

2つの結果は開放政策を反映している。通常、輸入の対GDP比の上昇は関税の削減を含む貿易自由化の産物だ。鄧小平の改革開放政策以降、中国は内向きの姿勢を改め、2001年にWTOに加盟した。

一方、経常黒字は積極的な輸出促進政策に基づく。外国資本の流入を中国政府は抑え、中央銀行は競争力のある為替レートを維持するために余剰外貨を買い取った。その結果外貨準備高が膨れ上がり、2014年のピーク時には4兆ドルに達した。

中国政府は諸外国の不安に対応

貿易自由化と重商主義は、世界市場における輸出のシェアを着実に拡大させた。1985年に1%に満たなかった製造品輸出のシェアは2007年に12%まで上昇し、衣料品では50%という天文学的なレベルに達した。政府の政策の下、中国では生産性が他国より速いスピードで上がったのだ。

だが輸出シェアと経常黒字の拡大は諸外国の不安をかき立て、中国政府はこれに対応した。まずアメリカの圧力に応えて、人民元の対ドル高を容認した。人民元は2010年から10年で50%ほど上昇し、経常黒字は06年にGDP比10%でピークに達したのち、18年には実質ゼロまで縮小した。

第2に政府は世界金融危機の際に景気刺激策を打ち出し、不動産・インフラ分野に資金を投入。公共支出の変化により生産の構成は貿易財から非貿易財に傾いた。第3に習近平(シー・チンピン)政権下で中国は内向きに転じ、外国との競争を抑えるために「ローカリゼーション」と「国内大循環」を重視した。

さらにアメリカはトランプ前大統領の下で対中関税を引き上げ、次のバイデン政権はこの戦略をより強硬に推し進めた。

こうした措置は競争力をそぐはずだ。人民元高にアメリカの保護主義が重なれば、輸出は減ると直感で分かる。中国の保護主義と刺激策も同様の影響をもたらすだろう。経済学者アバ・ラーナーの「輸入税は輸出税」説を信じるなら、世界金融危機後の輸入の急激な減少は輸出の競争力の妨げになったはず。刺激策が後押しした非貿易財の成長も、人件費と物価の上昇により、貿易財の競争力を弱らせたはずだ。

だが快進撃は続いた。製造品の輸出シェアは、2008年頃の12%から22年には22%まで跳ね上がった。中国の経常黒字は再び急速に拡大し、人民元安が進行中。欧米では報復措置を求める声が高まっている。


だがまずは中国のパラドクス、すなわち輸出が通貨の上昇や保護主義など従来の政策手段を物ともせずに成長し続ける理由を解明するところから始めるべきだ。それは政府が型破りな方法で、あるいは秘密裏に輸出品を巨額の補助金で支えているせいなのか。それとも中国企業がEVなどの新技術を効率的に習得した結果なのか。

欧米は緊張をあおるだけの報復措置に飛び付かず、こうした問題を中国と議論し、分析結果に合わせて対処するべきだ。

©Project Syndicate


アルビンド・スブラマニアン
ARVIND SUBRAMANIAN
インドの経済学者。ピーターソン国際経済研究所の上級研究員、ハーバード大学ケネディ政治学大学院の客員講師。2014~18年にかけては、インド政府の首席経済顧問を務めた。

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