天候に大きく左右される農業ビジネス。1年を通した安定的な生産は、雇用や販売先の確保の面でも長年の課題です。冬の寒さや日照時間の短さ、夏の暑さなど、条件が厳しい福井県に合う「ハウス栽培」に挑む農業法人を取材しました。
 
美浜町の田園風景に映える、トマト色の建物と連なる白のハウス。ハウス栽培で福井県内トップクラスの規模となる美浜町の農業法人「無限大」が、国、県、町の補助や融資を合わせ、約3億7000万円をかけて整備したミディトマトのハウスと集出荷施設です。
 
真夏のハウスで、珍しい収穫作業が行われているのは夏野菜のトマトです。いま、日本の夏は気温が高すぎてトマトを育てにくい状況のため、猛暑でも栽培できるよう最新の空調システムを導入しました。
  
設定温度以上になると紙の膜に水が流れ、気化熱を利用した冷たい空気を36基の換気扇で送ります。無限大の木子博文社長は「40度近い外気温でも、ハウス内は29度に抑えられた」と話します。
  
このシステムを活用することで、この夏は空白期だった7月から8月の生産に挑戦しています。木子社長は「夏のトマト産地は甲信越、北海道と涼しい所に移るが、1年通じて安定してトマトを出荷できることが、産地としては大事」と通年出荷の重要性を強調します。
  
一方、冬はというと、配管にお湯を流しハウス内を温めます。燃料は「木質ペレット」にすることでカーボンニュートラルに貢献し、燃料費も灯油と比べて4割削減できる見込みです。
 
福井県によると、1年を通して出荷できるミディトマトのハウスは県内で初めてです。
 
「無限大」が新たな整備に踏み切ったのは、長年の疑問からでした。木子社長は「全国一律で同じようなスタイルが、果たして栽培期間の約半分で日照が少なく、気温が低く暖房を使わないといけない福井県の環境に適合しているのか」と考えたといいます。
  
また、従来型のハウスは屋根が高く大きいため、建設費や燃料費がかさむにもかかわらず、1年を通して安定的な生産が難しいのも課題だと感じていました。作業についても「トマトの枝を上まで伸ばすので、高い所まで登る作業台車に乗って管理をしなければならない」ことが負担でした。
  
これらの課題を解決しようと、新しいハウスは屋根を低く小型にすることで空調効率を上げ、建設費も圧縮、栽培方法についても、低い背丈で密集させることで、収量をキープできます。また、植え替えを年1回から3回に増やして周期を短くすることで、病害虫や生育不良によるリスクを軽減します。
 
収穫したトマトを自動で運ぶ、県内初となる最新設備も導入しました。「最近の就業者の中心は女性や高齢者なので、作業をできるだけ自動化、機械化している」と話します。また、数年の実験結果から味と収量のアップに向け、LEDライトを本格導入しました。
 
木子社長は、この新しい施設を「課題解決型ハウス」と呼んで、福井にあったハウス栽培を模索しています。「福井県をトマトの大きな産地にするため、独自の、今まで福井では考えられなかった技術を、美浜町から発信したい」と意気込んでいます。

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