パリ五輪の開会式で、オルセー美術館の上を走る聖火ランナー=パリで2024年7月26日、ロイター
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 「すごい技術力」「競技で活躍する選手の皆さん同様にこのメーカーにも拍手を送りたい」――。雨に見舞われたパリ・オリンピック開会式で聖火が「消えなかった」として、注目されたトーチの燃焼部などを製造した日本企業にX(ツイッター)などで称賛が集まっている。そして本業にもプラスの効果が生じている。

 製造したのは、工業用やアウトドア用のバーナーなどを製造・販売する燃焼器具の総合メーカー「新富士バーナー」(愛知県豊川市)。展開するアウトドアブランド「SOTO(ソト)」のランタンやコンロなどは耐風性が強く、過酷な環境下でも炎が消えないとしてキャンパーや登山家に人気が高い。従業員数130人の中小企業だが、高性能の製品づくりが評価され、2021年開催の東京五輪に続き、パリ五輪でも採用された。

 パリ五輪では燃焼部とガスボンベを担当した。「1時間に50ミリの大雨や、時速60キロの突風に耐えられる炎」という条件は東京五輪と同じ。ただ、耐風性や耐雨性に影響するトーチの外部デザインが異なるため、「ほぼ一から試験をやり直した」(同社広報の山本潤さん)と明かす。「赤い炎が旗のように、なびいているように見せたい」という大会組織委員会からの難しい要望にも応えようと改良を重ねた。

 開会式当日は、聖火ランナーの一人がトーチを手に高速で体を回転させるなど仏発祥のスポーツ、パルクールの演出もあった。山本さんは「予期しない動きをしていたので驚いた。見届けた後は、一つ役目を終えたような感覚で安心しました」と振り返った。

 パリ五輪での活躍が注目を集めたことで、同社のホームページへのアクセス数は急増した。採用ページの閲覧数が伸び、通信販売の売り上げも前年同期比数倍に上昇しているという。山本さんは「評価いただけたことはとてもありがたい。新たな炎の用途を作りだし、日常や災害時でも安全に炎を扱える世界を目指したい」と次を見据える。【嶋田夕子】

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