(ブルームバーグ):ホンダと日産自動車の協業が動き出した。自動車開発の競争領域にソフトウエアが加わり海外IT大手もライバルになる中、三菱自動車も含めた3社連合でも生き残るには不十分で、トヨタ自動車のグループと合流して日本勢で手を組む必要があるとの声も出ている。

ホンダと日産は1日、次世代車「ソフトウエア・ディファインド・ビークル(SDV)」向けプラットフォーム関連の共同研究などを発表した。SDVは簡単に言えばスマートフォン化された車で、車両全体がソフトウエアで制御され、従来の車と設計の考え方が異なる。販売後にアップデートで情報更新や新たな機能が追加でき、自動車メーカーのビジネスモデルを一変させる可能性も秘めている。

パソコンやスマホでは、オペレーティングシステム(OS)を押さえた企業が覇権を握った。高い燃費性能や品質で世界シェア3割を持つ日本の自動車業界だが、ソフトウエアという新たな競争軸が持ち込まれることで、電機業界と同じ轍(てつ)を踏む可能性もある。

生き残りへの鍵はOS領域での協業だと、経済産業省主催のSDV戦略の検討会で座長を務めた名古屋大学未来社会創造機構の高田広章教授は指摘する。同氏は7月のインタビューで日本企業はソフトウエアが「得意でないのは間違いない」としつつOSの普及は規模がポイントになり、日本車の高シェアが強みとなり戦略次第で一角を占めるチャンスもあるとした。

SDVなどでの協業について会見するホンダの三部社長(右)と日産の内田社長(1日、都内)

ホンダ・日産・三菱自の前期(2024年3月期)の世界販売を合計すると約850万台前後。トヨタは自社グループだけで1100万台超、スズキ、マツダ、SUBARUを加えると1650万台程度と倍近い開きがあり、高田氏は「ちょっと規模的には足りない」との見方だ。

テスラでも厳しい

パソコンやスマホのOSは寡占状態にあり、高田氏は車両OSも世界で「2-3個」しか生き残れないとみる。残る可能性が最も高いのは米グーグルと中国のファーウェイの2社でSDVの先駆者である米テスラですら昨年の世界販売が約180万台と規模が小さく、単独では厳しいという。

日本勢は現状、SDV開発でテスラや中国の新興電気自動車(EV)メーカーに出遅れている。経産省は巻き返しを図る考えで、5月に公表した戦略でSDVへの取り組みを強化し、30年に日本勢の世界シェア3割を確保するとの異例の目標を掲げた。

経産省の伊藤建モビリティDX室長は、米中と比べて日本勢の「SDV化は遅れているという認識がまず前提認識としてある。この出遅れにどう勝っていくかが命題」と説明する。

伊藤氏によると、昨春の上海モーターショーで現地勢の最新技術を目の当たりにし、日本のメーカーも「このままいくと勝てないんじゃないか」という考えに変わってきた。日本の基幹産業である自動車のシェア目標を政府が打ち出すのは初で、国としても危機感を持っているという。

OSは競争領域に

ただSDVで重要な役割を担うOSでの協力には踏み込まなかった。戦略では各社が協する分野を取り決めたが、OSはそこに含まれず競争領域とされた。車両OSとアプリケーションをつなぐ「API」では、標準化を目指す方針が打ち出されたという。

高田氏によると、APIは従来は競争領域と目されており協調姿勢が出てきたことは日本の自動車メーカーの危機感を示すものだが、開発に巨額のコストがかかるOSで「協調しないと意味がない」と話す。

車両OSではトヨタが傘下のウーブン・バイ・トヨタで「Arene(アリーン)」の開発を進めており、25年の実用化を目標とする。ホンダも独自開発を進め、同年に北米で投入する中大型EVからの採用を目指している。日産はこれまでOSの開発状況を公表していない。

1日の会見ではホンダの三部敏宏社長が、日産とのSDVの協力範囲には車両OSも「当然入ってくる」と述べ、OS開発でも2陣営に分かれる構図となっている。

高田氏はホンダや日産がトヨタ陣営と組めば規模的には十分で日本勢が一つの車両OSで勝負するのは「一つのストーリー」と指摘。ただ、日本でまとまる必然性はなく海外メーカーと組むなどで規模を確保する方法もあるとした。

大きな変化

米A.T.カーニーのシニアパートナー、阿部暢仁・マッスィミリアーノ氏は、EVだけでも旧来の自動車メーカーにとって「コスト構造がぶっ飛ぶ」ような話とした上、脱炭素と並び大きなトレンドであるデジタル化の流れでSDVへの対応にも迫られ、「これまでの車の作り方でいるともう事業として成り立たなくなる」と指摘する。

SDVがもたらす変化の規模は自動車業界が経験したことがないもので、従来の延長線上の発想では乗り越えられないのではないかとの疑問があるという。

阿部氏は日系メーカーの開発は「協調といいながら各社が独自にというのがこれまで多かった」が、各社が似たような機能をそれぞれ開発するのは非効率で、自前主義から脱却すべきとの考えを示した。

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