8月1日、現在の劇的な円高は、最も強力な味方を引き連れている。写真は円紙幣のサンプル。都内の貨幣博物館で7月代表撮影(2024年 ロイター)

現在の劇的な円高は、最も強力な味方を引き連れている。モメンタムだ。円を38年ぶりの安値に押し下げてきたトレンド追随型ファンドが手のひらを返すと、猫も杓子も円安トレードから足を洗い始めた。

円はドルに対して3週間で8%上昇し、市場参加者はそのスピードに不意を突かれた。


 

相場が落ち着いていた時期に円のショート(売り)ポジションを組んでいたファンドや、トレンドに従って取引する「コモディティ・トレーディング・アドバイザー(CTA)」などは、相場の反転で損失を被ったり、少なくとも新たなリスク計算を迫られたりした。

1月に1ドル=140円だった円相場は、7月には161円まで下がっていたが、それが急転換したからだ。

8月1日の相場は150円前後で、円のショートで得た含み益の半分が吹き飛んだ計算だ。しかも相場のボラティリティーが高まったことで、ショートポジションのリスクは日増しに増大している。

日米中銀の政策会合が終わり、金利の方向性が反対であることが確認された今、レバレッジを駆使する市場参加者の次の動きが為替市場を動かし、それはおそらく円の一段高につながると、アナリストやディーラーは言う。

UBSのマクロストラテジスト、ジェームズ・マルコルム氏は「1ドルが152円を割り込むと、CTAにとって多くの節目が破られ始め、CTAは単にドルのロング(買い)を減らすだけでなく、ドル/円のショートに転じ始める」と説明。こうしたトレンド追随型の投資家が市場の転換から同じシグナルを読み取って動くことで、相場の動きがますます増幅されるとの見方を示した。

円金利は2000年代初頭からゼロ近辺に抑えられてきたため、円売りは長年にわたり世界屈指の「おいしい」為替取引だった。円がじりじりと下がり、為替のボラティリティーが低い局面では、なおさらだった。

しかし今、円金利が低く、しかも安定し続けるとの想定が突如として覆りつつある。

公式統計によると、日本の投資家は今年に入って外国株から差し引き2兆2000億円を引き揚げた。この間に外債に流れた差し引き6212億円の投資よりも大きな額だ。

同時に、日銀は4カ月の間に2度利上げを実施した上、円売りポジションにとってのセーフティーネットだったイールドカーブコントロール政策を廃止した。

マコーリーのストラテジスト、ギャレス・ベリー氏は「過去2年間の円安は構造的シフトではなかったと、今でも確信している。循環的な性質の売りであり、完全に逆転可能なものだ」と語った。同氏はドル/円が2025年末までに125円に下がると予想している。

米市場規制当局のデータによると、円の売り越しは足元で86億1000万ドルと、約7年ぶりの高水準だった4月から40%減っている。

イーストスプリング・インベストメンツの債券チームのポートフォリオマネジャー、ロン・レン・ゴー氏は「ドル/円のテクニカル指標が反転した。日銀が明確にタカ派姿勢を強めたことで、市場は利上げの有無ではなく利上げ幅に焦点を絞るようになった」と述べた。

市場のポジションは依然として円売りに傾いているため、ゴー氏は円の一段高を見込んでいる。


 

もちろん、円安の継続を予想させるファンダメンタルズ面の材料もある。日本の政策金利は米国より約500ベーシスポイント(bp)も低く、市場予想では1年後でもその差は300bpを超えている見通しだ。

しかし、前回円のキャリートレードが巻き戻された1998年を覚えている投資家は、数週間のうちに1ドル=147円から同101円まで円高が進んで痛手を被った恐怖を思い出し、円売りから逃げ出している。

メイバンク・セキュリティーズ(シンガポール)のタレック・ホーチャニ氏は、ヘッジファンドは正面から円を売る取引を避け、オプションを通じてボラティリティーのさらなる上昇に賭けると予想した。.

ステート・ストリート銀行東京支店の若林徳広支店長によると、レバレッジを掛けていない投資家が、ここ数週間で円に資金をつぎ込み、過去5年間で最も極端な流入になっている。資金運用担当者が、アンダーウェートにしていた円のポジションを中立に戻しているからだという。

若林氏は「(円は)200日移動平均を突破した。(中略)従って、テクニカル的にこれまでとは異なる局面が生じた可能性がある」と語った。



[ロイター]


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