7月25日、 株式から金、仮想通貨、ドルまで「全面高」だった米国の市場に変化が生じ、投資家はお気に入りの取引を手仕舞い始めている。ウオール街で2021年4月撮影(2024年 ロイター/Carlo Allegri)

株式から金、仮想通貨、ドルまで「全面高」だった米国の市場に変化が生じ、投資家はお気に入りの取引を手仕舞い始めている。高騰していた巨大ハイテク株の反落をきっかけに、今度はさまざまな市場に売りが広がる恐れがあるからだ。

米S&P500種総合株価指数とナスダック指数は24日、2022年末以来で最悪の下げとなり、25日も続落した。


 

巨大ハイテク企業の先陣を切った電気自動車(EV)大手テスラとグーグルの親会社アルファベットの四半期決算発表が売りを誘ったため、マイクロソフト、メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドット・コム、アップルの決算を来週に控えて投資家は神経をとがらせている。

資産運用会社アルテミス(ロンドン)の投資ソリューション責任者トビー・ギブ氏は「投資家のポジションは相当リスク志向に傾き、相場とバリュエーションを限界まで押し上げるのもいとわなくなっていた」とした上で、「相場の調整が続くかどうかを予想するのは難しい」と述べた。

シカゴ・オプション取引所のボラティリティー・インデックス(VIX)は24日、過去2年間で最も大きな上昇率を記録した。

LSGEのデータによると、S&P500指数の予想利益に基づく株価収益率(PER)は22倍近くと、2年ぶりの高水準だ。

フィデリティ・インターナショナルのポートフォリオマネジャー、マリオ・バロンチ氏は「市場は相場上昇局面でPERを意に介さなくなっており、同じことは下落局面にも言える」と指摘した。

人工知能(AI)ブームを背景に、米株式市場では一部の巨大銘柄がS&P500を過去最高値に押し上げる一方、その他大半の銘柄は力なくその後を追う展開が続いてきた。

トゥルイスト・アドバイザリー・サービシズのキース・ラーナー共同最高投資責任者は、ハイテク株に関する長期的な強気見通しを維持しつつも、今後は相場の上下が激しくなるかもしれないと予想。25日のリポートには「当社の基本シナリオでは、長期的な強気相場は不変だが、相場は往々にして2歩進んで1歩下がるものだ」と記した。

米大統領選の急展開

米大統領選の情勢が目まぐるしく変化していることも、相場に影響している。トランプ前大統領の暗殺未遂事件が起こった直後、バイデン米大統領は選挙戦撤退を表明し、ハリス副大統領にバトンを渡した。

トランプ氏の中国に対する敵対的な発言と、インフレを引き起こす可能性のある政策姿勢は、世界中の半導体企業を直撃し、30年物米国債の価格も下落した。

ただ一部の大手投資家は、現在は強気相場の中の押し目に過ぎないとみている。

ジャナス・ヘンダーソン・インベスターズのハイテク担当ポートフォリオマネジャー、リチャード・クロード氏は「夏場の一種の利益確定に過ぎないのに、(地政学的リスクに関する)物語が言い訳に使われているのだと思う」と語った。

キャリートレード巻き戻し

今週は株式や金など、今年堅調を続けてきた市場が反落する一方、小型株の他、スイスフランや円など伝統的な安全資産が急上昇した。

これには単なるリスク回避以上の意味がある。


 

これらの通貨は長年、低金利通貨を借りて高金利通貨の資産に投資するキャリートレードのための調達通貨として利用されてきた。米連邦準備理事会(FRB)の利下げ観測が強まり、米株の強さに疑念が生じ始めた今、キャリートレードが巻き戻されているのだ。

クリアブリッジ・インベストメンツの経済・市場ストラテジー責任者、ジェフ・シュルツ氏は「多くの投資家が円を売ってハイテク株を買ってきたが、最近の円高と、こうしたキャリートレードの巻き戻しに伴い、大型ハイテク株もある程度売りを余儀なくされている」と語った。

ビットコイン症候群

フィデリティのバロンチ氏は足元の相場下落を「ビットコイン症候群」だと指摘。「相場が下げている時、投資家は気にしない。遅かれ早かれ再び上昇するので、相場調整は買い直しの好機だと考える」と語り、暗号資産(仮想通貨)ビットコインの変動パターンになぞらえた。

ただトレード・ネーションのシニア市場ストラテジスト、デービッド・モリソン氏は、市場の慢心を戒める。「第2・四半期決算が堅調で、今四半期についても企業から良好な見通しが示されるとの前提で、相場の一段高が予想されている。もしもそうならなかったら、利益確定の売りがさらに増えるだろう。投資家なら身に覚えがあるはずだ」と話した。



[ロイター]


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