金間大輔・金沢大教授=本人提供

 若者が辞める職場は何が問題なのか。責任や負担が増える昇進のために頑張らなければならない状態を「罰ゲーム」に例えられた時、上司は何ができるのだろうか。金間大輔・金沢大教授に聞いた。

「この会社に居続けていいのか」

 マニュアル的な知識や技術をいち早く身につけることが、仕事ができるようになる近道だと若者は考える傾向にある。そのファストスキル的な発想は、周りからこぼれ落ちないようにするための自己防衛でもある。

 若者を採用する企業は、長期的な人材育成のため、希望通りではない職場に若者を配属することもある。しかし若者はこの回り道をとらえて「タイパ(タイムパフォーマンス、時間対効果)が悪い」と思い、企業との間にズレが生じる。若年人口減で転職先は多くある近年、手っ取り早い成長の機会を与えてくれない職場について「この会社に居続けてよいのか」と悩むようになる。

「演技力」にたけた若者

 若者が辞めようと思っている状況に企業が気づきにくいのも特徴だ。上司との1対1の面談で若者が「アドバイスありがとうございます」と話した後、退職代行サービスから連絡が届くケースもある。突然の退職願に上司が面食らうのは、今の若者が本音風に話す「演技力」にたけているからだ。

 この背景には、小中高校で「個性の重視」の教育の下、「主体性」発揮を求められ続けることがある。この主体性はごく優秀な一部をのぞき、大人からの圧力というマイナスの意味で受けとめられる。それを避けるために、子供は大人向けの会話用のテンプレート(定型)を身につける。上にも下にも出ず、大人と歩調を合わせる演技力と言い換えてもよい。

「やりたいことを見つけなければならない」

 また、少子化の影響も大きい。若年人口減で子供1人への期待感は高まり、高校や大学への進路指導では「偏差値だけではなく、将来何になりたいか考えて進学先を選んで」と言われ、行事では「チャレンジ精神」を求められる。こんな教育の中で育つ若者は「やりたいことを見つけなければならない」「この世には自分の個性を生かせる天職があるはず」といった価値観を持つようになる。

 一方で周囲を見渡せば、ハラスメント対策などに縛られつつ、ひたすら周囲に気を使いながら仕事をする先輩たちがいる。そんな姿を横目で見ているうちに若者は昇進して上司になることは、責任と負担ばかり大きくコスパ(費用対効果)に合わないと考えるようにもなる。

ほめるときにも「個別」に

 近年、若者の就職先に地方公務員が人気なのも事情は似ている。国家公務員(官僚)と地方公務員といずれも内定した学生に「同じ世代でも役職が早く上がる」と官僚を勧めても、あえて地方公務員を選ぶケースが多い。責任や負担が増える昇進のために一層頑張らなければいけない状態を「罰ゲーム」に例える若者もいるほどだ。

 とはいえ、若者には社会貢献したい気持ちも十分ある。天職探しは否定しないが、まずは目の前の仕事の楽しさ、やりがいを見つけてほしい。企業には「働きがい」を一緒に見つける努力を求めたい。上司はメールを客に送る仕事を頼んで若者ができたら「個別」にほめる。当たり前と思わずに若者の行動に言葉できちんと返すことから始めてはどうだろうか。【聞き手・宍戸護】

かなま・だいすけ

 1975年生まれ。金沢大准教授などを経て、2021年から現職。同年から東京大未来ビジョン研究センター客員教授も兼ねる。著書に「静かに退職する若者たち」など。

他に2人の識者にも話をうかがいました。
「ゆるい職場」でも 今必要な「育て方」改革は
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