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<「がんばっているのに売れない」のはなぜなのか? 2万人調査から科学的に解き明かした「できる営業」「できない営業」の明確な違い>

「がんばっているのになぜ売れないんだろう」「お客様の要望を聞いているのに契約に至らない」──。令和の今も「努力」が重視される営業の世界ですが、そのセオリーは本当なのでしょうか。

そんな疑問に切りこんだのが、『営業の科学』(かんき出版)です。著者は『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』『無敗営業 チーム戦略』(日経BP)などのベストセラーで知られ、営業4万人以上を支援してきた株式会社TORiX代表の高橋浩一さん。今回、2万人(営業1万人+お客様1万人)の大規模調査を行い、営業における「急所」を科学的に解き明かしたのが本書です。成果の明暗を分ける「急所」は、一体どこにあるのでしょうか?
(※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です)


なぜ、がんばっているのに売れないのか

──『営業の科学』を執筆された背景をお聞かせください。

当社(TORiX株式会社)はこれまで4万人以上の営業を支援してきましたが、その中でいつも感じているのは、「営業の成績と努力はなぜ比例しないんだろう」ということです。営業現場を見ると、怠けていて成果が出ないという人は少数派で、どちらかというと、「がんばっているのに成果が出ない」という方が多数派です。これはどうしてなのかという問題意識は常に持っていました。

現場の管理職の方にお話を伺うと、「スタンス」という言葉をよく使うんです。「○○さんは営業としてのスタンスが良くない」とか。まじめにがんばっているのにスタンスが良くないというのはどういうことなのか?これは深く見てみたいと思いました。

また、営業組織のトップの方って、卓越した能力で何でも売ってしまうような超人的な人が多いんですね。彼らは「営業なんて、当たり前の基本をやれば売れるんです。別に難しいことは要求していません」と言いますが、難しくないならみんなとっくにできているはずです。

こういう状況の中、「実際のところ、営業の難しさは何なのだろうか」と疑問に感じ、切りこんでみようと思いました。そこで、営業とお客様それぞれ1万人、計2万人に調査をしました。1000人規模の定量調査はよくありますが、1万人規模はまず見かけないと思います。

営業の科学
 著者:高橋浩一
 出版社:かんき出版
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成果を出す人は「武器の引き出し」をたくさん持っている

──調査の結果、どのようなことがわかりましたか。

営業1万人調査では、目標達成段階を5段階に分けて、一番達成レベルが高い人と低い人を比較したんです。そうしたら、達成レベルが低い人は「まじめさや誠実さ」、「人の話に耳を傾けること」に自分の強みを見出している傾向が強いことがわかりました。

もちろんハイパフォーマンスな人もそれを意識していないわけではありません。ただ、ハイパフォーマーはそれ以外の武器のラインナップが広いんです。逆に目標未達の人たちは、まじめや誠実さ以外の武器が少ないことが調査を通して見えてきました。

営業の世界には、よく言われる「3つのアドバイス」があります。1つ目は「目標達成を意識しなさい」、2つ目は「大量行動をしなさい」、3つ目は「お客様と関係構築をしなさい」。


この中で、3つ目の「関係構築」がとりわけ難しいんですね。目標達成を意識することはできるし、大量行動もがんばればできる。でも、いくらがんばっても冷たいお客様っていますよね。また、新規のアポイント獲得のためにお電話しても、「まずは資料だけ送ってください」とかわされ続けていたら、関係構築も何もありません。それでも営業の指導では「たくさん行動をしていれば、関係構築できるよ」などとアドバイスされるわけです。

このアドバイスは、たしかに正論なのですが、あまりにアバウトすぎます。そこで私は「なぜお客様は営業と距離を縮めようとしないのか」ということを、しっかり解き明かしたいと思いました。そしてたどり着いたのが、『営業の科学』でも紹介している「購買者の仮面」です。

この「購買者の仮面」に気づけるかどうかが成果の明暗を分けるんです。成果の出ない人は、その仮面を被ったお客様に翻弄されている。逆に成果を上げている人は、仮面をうまく外してもらっているんです。

TORiX代表の高橋浩一さん(flier提供)

──「購買者の仮面」とは、具体的にはどのようなものでしょうか。

例えば、インサイドセールスの人が新規のアポイントを取ろうとするとき「今忙しいので」「ではいつなら空いていらっしゃいますか」というやりとりが発生します。それで「1カ月ぐらい忙しいかもしれない」と言われて1カ月後に電話してみると、「まだ忙しいです」と。また1カ月待って電話しても相手はまだ忙しい......。こういうやりとりを延々と繰り返すんですね。

成果を出す人は、本当に忙しいのか、それともその場しのぎではぐらかしているだけなのかを見極めます。たとえば、「今の時期はどういうことでお忙しくされているのですか?」と聞くと、相手のリアクションで大体わかりますよね。「ちょうど4月に社長が交代して組織体制も変わったので、これから結構バタバタすると思います」と返ってきたら、本当っぽいですよね。であれば、4月は忙しくても連休明けには落ち着いているかもしれないと、仮説を立てることができる。

そこで5月の連休明けに再度コンタクトを取ったとき、「前回、社長交代の直後で慌ただしくされているとのことでしたが、1ヶ月経って、具体的な指示が現場にも降りてきているのではないですか?」と聞いてみるんです。すると「実は社長からこういうこと言われていて困ってるんです」と相談され、関係構築の糸口をつかむチャンスが生まれます。

「忙しい」と言われて「はいわかりました」と単に引き下がるだけでは大事な情報が引き出せません。「本当に忙しいのか。忙しいとしたらそれは何が原因なのか」を突き止めようとするから、関係構築が前進するのです。


──言われた言葉を真に受けているだけではいけないんですね。

他にも例をあげてご説明します。たとえば、大半の営業はクロージング段階で「検討しますのでお待ちください」と言われたら、「この案件は7~8割ダメだろう」と考えます。でもお客様1万人調査でわかったのは、可能性がないからシャットアウトしたというお客様は13.7%だけで、残りの86.3%のお客様は「きちんと条件を満たせば、追加で話を聞いてもよい」と答えています。つまり、まだチャンスは86.3%もあるんです。その条件とは、「提案に対するちょっとした不満の解消」だったり、「タイミングを改めた連絡」だったりします。ただし、その「条件」は、お客様の方から進んで言ってくれるわけではありません。

お客様が「検討します」と言って営業をかわす理由は、提案がNGだからではなく、検討状況や感触を詳しく伝えるのが面倒くさいからです。「いったんこう言っておこう」という、いわば時間稼ぎなわけです。

──高橋さんご自身が「購買者の仮面」に気づいたエピソードはありますか。

例えば新規のお客様の中には、忙しいとおっしゃっていても、いざ商談になると時間を延長してくださる方がいらっしゃいます。「30分だけと言っていたのに、もう1時間半経っている」ということが何度かあったとき、忙しいというのは方便で、本当は、時間を使う価値があるかどうかを見極めているということに気づいたんです。

それならば、時間を使う価値があることを示せばいいですよね。「続きを聞きたい」と言われることを予測して、準備をして商談に臨む。売れない人は「忙しいので」と言われた瞬間、手短に済ませることだけ考えて終わりですが、売れる人は簡潔に伝える用意もしておく一方で、仮に時間の延長をいただけたときに伝える “プラスα” を用意しています。

本音を覆い隠す5つの「購買者の仮面」

──本書では、「購買者の仮面」には5種類あると書かれています。簡単にご説明いただけますか。

まず1つ目は「はぐらかしの仮面」です。典型的なのは「まだ予算が決まっていません」など、ヒアリングに対するあいまいな回答です。多くの営業はこう言われると真に受けて、金額を聞いてはいけないと思い質問を控えてしまいます。でも、本当は教えたくないのではなく「教えることで不利益があったらイヤだな」という損得の問題なのです。なので、教えた方が得だということを示した上で、聞き方をちょっと工夫すればフィットした提案ができます。


2つ目は「とりあえず忙しいので資料だけ送ってください」という「忙しさの仮面」です。まじめな人はただ資料を送って待ちますが、それだけでは当然、お客様からの連絡はきません。

お客様の本心は、シビアですが「レベルの低い営業に時間を使いたくない」です。だから、資料を送る動作の中に、時間を使う価値があるという根拠を示す必要があります。具体的には、端的にお客様の課題を探る質問をする、費用対効果の高さを資料でしっかり示すなどの工夫をするわけです。「時間を使う価値」にフォーカスすることで、提案機会をいただくことができます。

3つ目は「いきなりの仮面」で、「とりあえず、すぐ見積もりをください」と言われるケースです。他の会社からの提案を聞いて社内承認をあげようとしたら、上司から「他の見積もりも取って比べるように」と言われて慌てて問い合わせてくるお客様ですね。

ここで、多くの営業は「そんなにすぐは良い提案ができないので、ヒアリングやディスカッションの機会をいただけませんか」と打診して断られます。いきなり「提案内容」で勝負しようとしてしまうわけです。

この場合、お客様の本音は「話が早い営業と進めたい」、要は頼れる存在であるかどうかが大事なんです。であれば、最初はレスポンスの「スピード」で勝負して、お客様に「この営業は打てば響く営業だ」と思ってもらえる高速ラリーに持ち込んでから、提案内容をブラッシュアップしていくのが有効です。

4つ目は「もっと安くなりませんか?」という「とにかく安くの仮面」。多くの営業はがんばって社内で値引き交渉しようとしますが、お客様の本音は「買う際の判断基準がわからない」なんです。どう判断していいかわからないから、とりあえず価格を判断基準にしているんですね。ですから「とにかく安くの仮面」の場合は、言われたまま値引きをするより判断基準を作りにいく対応をしないと、延々と値引きし続けることになります。

最後が「検討しますの仮面」です。先ほども申したとおり、「とりあえず社内で検討します」というのはお客様の一時的な現実逃避です。したがって、正しいアプローチとしては、単に待つのではなく、お客様がリアクションしやすい「助け舟の小さな一歩」を提示することです。

まじめさ以外の武器が少ないと、お客様から言われたことを忠実にこなして努力でカバーしようとしがちです。でも、言葉の裏側にある本音は必ずしも同じだとは限らないので、「言われたことへまじめに応える」だけでは成果が出づらいのです。


──まずは仮面の存在を知るところからですね。どうしたら気づけるようになるのでしょうか。

「お客様が本当に求めていることは何か」を考えることですね。「言葉ではこう言っているけど、もしかしたら違うことを考えているかもしれない」という疑問を持つのが大切です。

本当のお客様理解とは、「表面的なセリフにそのまま従う」ことではなく、「言葉の裏にある本音をつかむ」ことです。

営業の人たちの努力が報われてほしい

──本書をどのような方に読んでもらいたいですか。

がんばっているけど結果が出ない、という方に読んでいただきたいですね。本書は「こんなに簡単にうまくいきます」というショートカットを提示する本ではなく、成果をあげて楽しく仕事ができるようになるための本という位置づけです。

本書には「がんばる人の応援歌になりたい」ということを書いていますが、がんばってもうまくいかない人に光が差すような本になったら嬉しいです。営業の人たちの努力が報われてほしい、その手助けをしたいという思いで書きました。

──高橋さんにとっての「営業の楽しさ」とは、どのようなものでしょうか。

「発見」でしょうか。私は、営業という仕事には発見の面白さがあると思っています。

難しさがある分だけ、発見の「種」もたくさんあります。営業には1日の間で試す場面が山ほどあるので、「この本のこれを試してみよう」といろいろチャレンジしてみてほしいですね。「こうしてみたらうまくいった」というのは、発見の喜びのひとつです。


営業の科学
 著者:高橋浩一
 出版社:かんき出版
 要約を読む

無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」
 著者:高橋浩一
 出版社:日経BP
 要約を読む

無敗営業 チーム戦略
 著者:高橋浩一
 出版社:日経BP
 要約を読む


高橋浩一(たかはし こういち)

TORiX株式会社 代表取締役

東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業から6年で70名までの成長を牽引。同社の上場に向けた事業基盤と組織体制を作る。

2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。これまで4万人以上の営業強化支援に携わる。

コンペ8年間無敗の経験を基に、2019年『無敗営業』、2020年に続編となる『無敗営業 チーム戦略』(ともに日経BP)を出版 、シリーズ累計9万部突破。

2021年『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)、『気持ちよく人を動かす』(クロスメディア・パブリッシング)、2022年『質問しだいで仕事がうまくいくって本当ですか?』(KADOKAWA)、2023年『「口ベタ」でもなぜか伝わる 東大の話し方』(ダイヤモンド社)、2024年4月『営業の科学』(かんき出版)を出版。

年間200回以上の講演や研修に登壇する傍ら、「無敗営業オンラインサロン」を主宰し、運営している。

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flier編集部

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