くびれによってビールが流れる量が制限され、飲むペースがゆっくりになるという「ゆっくりビアグラス」。350ミリリットル缶1本分が注げる=東京都で2024年7月16日午前10時36分、松山文音撮影
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 3倍ゆっくり味わって――。クラフトビール大手「ヤッホーブルーイング」(長野県軽井沢町)は16日、ビールが飲み口にゆっくり流れる形状の「ゆっくりビアグラス」を発表した。通常のグラスに比べて約3倍、飲むペースが遅くなるという。ビールをたくさん飲んでもらいたいビールメーカーがなぜ自ら「ブレーキ」をかけるような、飲みづらいグラスを開発したのだろうか。

どんなグラス?

適正飲酒を意識した「ゆっくりビアグラス」=東京都で2024年7月16日午前11時30分、松山文音撮影
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 ゆっくりと時の流れを知らせる砂時計――。

 開発されたグラスは、真ん中に直径約6ミリのくびれがあり、注いだビールの色も相まって、砂時計を思わせるデザインが最大の特徴だ。

 350ミリリットル缶1本分を注ぐことができ、くびれがあることによって、残量が少なくなると飲み口に流れるビールの量が制限される仕組み。

 香りや風味を感じることができることと、飲みづらさの両立を模索し、7種30個ほどの形状の中から採用したという。

時代は「適正飲酒」

 アルコール飲料を巡っては近年、国内外で大量飲酒による健康リスクが指摘され、各酒類メーカーは適正飲酒に向けた取り組みを進めている。

 厚生労働省が2月に示したガイドラインは、アルコール飲料に含まれる「純アルコール量」の1日当たりの摂取量と、疾患別の発症リスクなどを例示し、注意喚起した。

 大手酒類メーカーでも「ストロング系」とも呼ばれるアルコール度数7~9%程度の缶チューハイなどの販売を見直したり、ノンアルコール飲料などに注力したりする動きが相次いでいる。

砂時計のようにくびれがあり、一気にビールが飲み口に流れない「ゆっくりビアグラス」=ヤッホーブルーイング提供
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 だが、ヤッホーブルーイングが7月に20~69歳の1099人を対象に行った調査では、厚労省のガイドラインについて8割近くが「知らない」と回答。一方、飲み過ぎてしまう理由として「人と一緒に飲むと、つい飲むペースが上がってしまう」が57・2%で1位だった。

 アルコール飲料業界では「自己否定」につながりかねない「適正飲酒」だが、同社プロモーション責任者の河津愛美さんは「『適正飲酒』を楽しく推進していきたいとのユーモアを込めて開発しました。暑い夏にゆっくり飲んで楽しんでもらいたいです」と話す。

10個限定の抽選販売

 「洗いにくいのでは?」と思う人もいるかもしれないが、「ビール自体にぬめりなどがあるものではないので、水と食器用洗剤を入れて振ってもらうときれいに洗える」(河津さん)という。

 16日から、同社公式通販サイトで販売されるが、東京ガラス工芸研究所の職人が一個一個手作りで製造しており、10個限定の抽選販売となる。価格は9800円。今後の販売は反響などを考慮して検討するという。

 同社公式ビアレストランや、一部の飲食店でも期間限定でビールを提供する際に使用される。【松山文音】

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