伝統農法を守り、室温30度前後の「室」の中で育てる小野川豆もやしを手入れする鈴木巌さん=山形県米沢市

世界三大美人とも称される平安時代の女流歌人、小野小町ゆかりの小野川温泉(山形県米沢市)で、温泉熱を利用して育てる冬の野菜「小野川豆もやし」の成分を抽出してつくった保湿化粧品が発売された。古くからの地元の食材でありながら、豆もやしを知る人は少なかったが、活用方法の広がりは観光のPRにもつながり、地元の期待も高まっている。

江戸時代から続く伝統農法

小野川豆もやしの種であるもやし豆は、江戸時代に現在の新潟方面から伝わったとされる。小野川温泉は1年のうち4カ月を雪に閉ざされる豪雪地帯。初冬になると、豊富な温泉に水を足した「温泉水」を栽培小屋の下に流し、室温を30度前後に保つことで、小屋の中で小野川豆もやしを育てている。

「室」と呼ばれる金属製の箱の底に砂を敷いたあと、ひと晩水に浸した「もやし豆」をまき、30センチ近くまで伸びたところで収穫する。栽培は冬場をはさむ11月から翌年4月中旬までに限られる。

生産農家の鈴木巌さん(66)は「深さ15センチの砂にもやし豆をまき、1週間もすれば出荷できるまで成長する」と話す。

小野川温泉では、冬の野菜として長い間、食べられてきたが、主に地元の温泉街と米沢市内に出荷されるだけで、小野川豆もやしはほとんど知られぬ存在だった。

かつて生産者は70人ほどいたが、いまでは鈴木さんをはじめ数人だけ。だが、令和2年のある日、鈴木さんに1本の電話がかかってきた。声の主は、化粧品のOEM(相手先ブランドによる生産)を手掛ける「サティス製薬」(埼玉県吉川市)の担当者。「鈴木さんがつくる小野川豆もやしで、化粧品をつくってもいいですか」という提案に、鈴木さんは「世の中にためになるものでしたらどうぞご利用ください」と快諾した。

隠された伝統野菜の魅力

サティス製薬が小野川豆もやしに目を付けたのは、令和元年に東京で開かれた、山形県産食材を紹介する物産展だ。同社の研究員が、根が長く、30センチ近くにまで育った珍しいもやしを見つけて購入。分析したところ、茎よりも根に活性型イソフラボンを多く含み、ふつうの豆もやしと比べ、活性型イソフラボンの物質であるダイゼインが174倍、ゲニステインが58倍も多く含むことがわかった。

活性型イソフラボンは、女性ホルモンにも似た構造体のため、同社研究部の小沼大希研究員(34)は「皮膚において女性ホルモンのような作用を示し、高いエイジングケア効果が期待できる」と話す。

各地の食材を再発見し、新たな魅力を見いだす地域貢献型プロジェクトを進める同社は、小野川豆もやしの不活性イソフラボンも活性型にする技術を開発。活性型、不活性型双方を合わせて、普通の豆もやしよりも活性型イソフラボンを多く抽出する技術も編み出した。

小野川豆もやしの成分を使ってつくった保湿化粧品=山形県米沢市の「鈴の宿 登府屋旅館」

「小野川温泉の活性型イソフラボン」と命名した原料から保湿化粧品を製造し、小野川温泉街でこの4月から販売している。愛用している演歌歌手の辰巳ゆうとさんは「べたつかないし保湿もしっかりでき、肌の調子を整えてくれる」と話す。

化粧品は、導入保湿美容液(5500円)と保湿クリーム(4950円)の2種を化粧品ブランド「REBELLS」として販売する「ナチュラル・ビューティーラボ」(東京)が担当。小野川温泉街では、「鈴の宿 登府屋旅館」と佐藤豆腐店で取り扱う。

鈴木さんは「小野川豆もやしをつくることが温泉を訪れる人の増加につながり、それによって地域を活性化できればよいのだが」と期待する。(柏崎幸三)

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