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<1BTC=6万ドルを超える水準に達したビットコインだが、この価格は価格変動のサイクルの中でどれくらいの水準にあると分析されるのか?>
多くの相場は、常に上昇し続けたり、常に下降し続けたりすることはありません。上がったり下がったりを繰り返す「周期(サイクル)」があります。トレーディングカードでも、半導体でも、金利でも、ビットコイン(暗号資産)でも、大きなトレンドの中で、相対的に高い時期と相対的に安い時期が存在するのです。
ビットコインの周期で最も有名なものは「半減期(*1)」ですが、今回の投稿では、「オンチェーン分析(オンチェーンデータの分析)」と呼ばれる手法を用いて、現在のビットコイン価格について考えてみたいと思います。
「オンチェーンデータ」と「オンチェーン分析」
オンチェーンデータとは、ブロックチェーンネットワークに記録された活動の集積です。ビットコインネットワークでは、例えば「AさんがBさんに〇月〇日に1BTCを送金しました」「Cさんは3年間、1カ月に1回0.1BTCを購入しています」「Dさんは10BTCを保有していて、DさんのBTCが最後に移動されたのは2カ月前です」といったような情報を、誰もが確認することができます。
オンチェーン分析とは、このようなオンチェーンデータの中から重要度が高そうな(相場に関係がありそうな)データを抽出して人間が解釈しやすい形に整え、それを評価する分析手法です。本稿では以下、オンチェーン分析で最も有名な指標の一つである「MVRV比率」を紹介します。
MVRV比率(MVRV Ratio)
(黒線:BTC価格、橙折れ線:MVRV比率)Glassnode提供のチャートにてSBI VCトレード株式会社 市場オペレーション部作成
上図は「MVRV比率(Market Value to Realized Value ratio)」と呼ばれる指標です。ビットコインの時価総額を「実現時価総額(Realized Cap)(*2)」で割った比率をチャート化しており、値が高いほどビットコイン価格が割高であり、値が低いほど割安であるとされています。
単純化して説明するなら、「ビットコインの現在価格は保有者全体の仕入れ価格の何倍くらいか」を表していると言えるのではないでしょうか。
以下、MVRV比率が高い箇所(緑枠)と低い箇所(赤枠)をチャートに書き込んでみます。
※一般にMVRV比率3.5以上は高い、1以下は低いとされますが、今後ビットコインの時価総額が上昇するにつれ、割高側の値(3.5)の適正値は徐々に小さくなっていくと筆者は考えています。
MVRV比率(書き込み後)
(黒線:BTC価格、橙折れ線:MVRV比率、緑枠線:MVRV比率が高い箇所、赤枠線:MVRV比率が低い箇所)Glassnode提供のチャートにてSBI VCトレード株式会社 市場オペレーション部作成
現在の市場環境は、MVRV比率が中期で頂点(2.78)をつけたばかりであり、低いというにはほど遠い状態です。今後上昇する可能性がない、とは言えませんが、数年単位で見て明らかな割安水準ではないことがわかります。投資の要諦は「安い時に買って高い時に売る」と言われることがありますが、MVRV比率を適用することで、ある程度の判断材料を得ることができるかもしれません。
MVRV比率を応用し、よりわかりやすく相場を色分けする手法が存在するため、そちらも紹介します。
MVRVの極端な偏差(MVRV Extreme Deviations)に基づく相場の色分け
(黒線(上):BTC価格、黒線(下):MVRV比率、青:MVRV Glassnode提供のチャートにてSBI VCトレード株式会社 市場オペレーション部作成この図では、全期間のMVRV比率の平均からの標準偏差(偏り度合い)(*3)に基づいて相場を色分けしています。赤い部分が最も割高な箇所、青い部分が最も割安な箇所になります。色分けによって、先ほどの枠線よりも、相場環境の変化が、よりわかりやすくなったのではないでしょうか。
色分けに基づけば、過去の高値水準と比較すると、今回の高値圏は「まだ過熱度が低い」と捉えることも可能かもしれません。ただし、安値圏ではない(積極的な買い時であるとは言いづらい)という点は、前図での分析と共通します。
「では一体ビットコイン価格がいくらになったら割安なんだ」と思う方がいらっしゃるかもしれません。そのような方のために、本稿の最後に、MVRVの偏差を価格モデルに落とし込んだチャートを紹介します。
MVRVの極端な偏差(MVRV Extreme Deviations)に基づく価格帯
(黒線:BTC価格、青:-1.0σ、緑:-0.5σ、黄:平均、橙:+0.5σ、赤:+1.0σ)Glassnode提供のチャートにてSBI VCトレード株式会社 市場オペレーション部作成
この価格モデルでは、MVRV比率を援用し-1.0σの価格水準が青線で、+1.0σの価格水準が赤線で描かれています。
最も興味を持ってもらえるのは現在の価格水準だと思いますので、直近1年間のチャートを作成します。
MVRVの極端な偏差(MVRV Extreme Deviations)に基づく価格帯(1年間)
(黒線:BTC価格、青:-1.0σ、緑:-0.5σ、黄:平均、橙:+0.5σ、赤:+1.0σ)Glassnode提供のチャートにてSBI VCトレード株式会社 市場オペレーション部作成
MVRV比率やビットコインの価格水準自体も変化するため、未来永劫有効な値を示すことはできませんが、少なくとも現在時点において価格が急変した場合、MVRV比率からは「ビットコイン価格$26,970以下は割安(-1.0σ以下)である」と分析することができます(※2024年6月28日時点での値です)。
今回の記事は以上となります。一気に難易度が上がってしまうのですが、上記価格モデルの具体的な内容を含め、MVRVについてさらに詳しく知りたい方には、glassnodeが公開している「Mastering the MVRV Ratio(https://insights.glassnode.com/mastering-the-mvrv-ratio/)」という記事が非常に完成されていますので、お勧めさせてください。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
*1)半減期について解説すると、あまりにも長くなってしまうため、興味のある方は筆者が過去に執筆した記事(https://www.sbivc.co.jp/market-report/e7wkgsj-76)を参照してみてください。
*2)時価総額は「現在価格×総数量」によって計算されますが、実現時価総額は、現在価格ではなく、「それぞれのビットコインがネットワーク上で最後に移動された時の価格×数量の合計」で計算された指標です。ビットコインは様々な理由で逸失してしまったり(例えば保有していることを誰にも告げずに保有者が亡くなってしまうなど)、非常に長い期間ホールドされたりといった形で、市場に出回らなくなることがあります。実現時価総額では、ブロックチェーン上の(=オンチェーン)実体経済に基づいて時価総額に重み付けを行っているのです。
*3)標準偏差は、データの分散度合いを表す統計指標で、データが平均からどの程度散らばっているかを示します。標準偏差が大きいほどデータが平均値から外れており、標準偏差が小さいほどデータが平均値近くなっています。以下はイメージ図です。全データの約68%が-1σから1σの範囲に、約95%が-2σから2σの範囲に存在しています(MVRV比率が±1σを超えるケースは、全相場の32%程度の珍しさである、ということです)。
清水 健登(しみず たけと)
慶應義塾大学総合政策学部卒。株式会社カヤックを経て編集者として開業。20年より暗号資産トレーダーとして活動。23年よりディーラーとして現職。
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