九州大と都市再生機構(UR)は18日、九大箱崎キャンパス跡地(福岡市東区)の再開発事業の優先交渉権者に、住友商事を代表とする企業グループを選んだと発表した。企業グループは今後、福岡市と九大、URと協議しながら具体的な事業計画書を策定。計画書が市などから最終的に承認されれば、2025年度以降に用地がグループに引き渡され、早ければ30年ごろにも新たな「まち」の姿が徐々に登場しそうだ。
グループは住友商事のほかJR九州、西部ガス、西日本鉄道、西日本新聞社など計8社で構成。再開発の対象区域は約28・5ヘクタールで、用地を所有する九大とURから371億7800万円でグループに譲渡されるほか、一部用地は60年間の賃貸契約が結ばれ、月1260万円で貸し出される。
九大は18年秋、箱崎キャンパスから伊都キャンパス(同市西区)への移転を完了。再開発事業の公募は20年度中に始まる予定だったが、新型コロナウイルス禍で23年4月に延期された。住友商事▽九州電力▽小売業などを展開する「トライアルホールディングス」の子会社――を代表とする3グループが企画を提案し、有識者などによる審査委員会が検討していた。
今回選ばれたグループの提案は、市が推進するまちづくり構想に沿った内容。大学の歴史を継承し、緑豊かなまちづくりを進めるほか、人工知能(AI)などを活用した未来のスマートシティーを目指す。
具体的には、新たな産業を生み出すイノベーション施設や大学の知を継承したライフサイエンスパークを、再開発地域の中心部に開設。食をテーマにした日本最大級の交流拠点「フクオカ・サスティナブル・フードパーク」(仮称)なども設ける。
周辺にはスーパーや住宅、病院などのほか、インターナショナルスクールや外国語専門学校などを配置。利用者の求めに応じて走る「オンデマンドバス」や電動自転車・バイクなどを導入するほか、安全面からAIを使った見守り用カメラも設置する予定だ。再開発事業とは別に、JR九州は箱崎駅の北側1・7キロに新駅の開業を予定している。
高島宗一郎市長は「緑豊かな都市空間や多様な都市機能などさまざまな観点から提案がなされ、魅力的なまちづくりになることを期待している」とのコメントを発表した。
最後の大規模開発か、期待寄せる市
九州大箱崎キャンパス跡地を巡っては、福岡市と九大が2018年7月、再開発の指針となるグランドデザインを策定。柱となったのは、最先端の技術を活用して人口減少や少子高齢化などを解決し、持続可能で先進的なまちづくりを進めるという「福岡スマートイースト」構想だ。箱崎地区では「自動で配送できるロボットの走行デモ」を皮切りに、これまで24件の実証実験が実施されている。
跡地全体は約50ヘクタールと、福岡・天神からJR博多駅までをカバーする広さに匹敵する。高島宗一郎市長は8日の記者会見で「一棟一棟の建て替えではなく、50ヘクタールで計画できるメリットを生かさなければ意味がない」と強調。市関係者は「この規模の再開発は今後、出てこないかもしれない」と再開発への期待を口にする。
優先交渉権者の決定で再開発が一歩進むことになり、ある不動産関係者は「福岡市で人口が最も多い東区で香椎照葉、千早に続く三つ目の拠点ができることになる。人口が増えて活性化し、いい意味で注目も集まる」と評価する。その上で「新たな拠点に引っ張られる形で周辺でも需要が生まれ、ビジネスチャンスが生まれるだろう。不動産業界にとってプラスになる」と見立てた。【下原知広、竹林静】
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