20年ぶりに新しいデザインとなる紙幣の発行が3日に始まる。券売機を置く飲食店や交通機関では新紙幣の読み取りに対応した機種への更新作業が進むが、一部で機器や部品の用意が追いつかず入れ替えが遅れるところもある。物価高で経営が厳しい中、新紙幣対応の負担を迫られた店からは恨み節も聞かれた。
6月28日午後、福岡市博多区のJR博多駅近くにある飲食店「大地のうどん 博多駅ちかてん」で、新紙幣に対応した新しい券売機の設置作業があった。昼夜の営業で1日約700人が来店。9割ほどが紙幣で支払うため、効率を考えると新紙幣への対応が欠かせないとして、約6年使った旧機から買い替える決断をした。
導入した券売機は1台150万円。既存機の部品の入れ替えで済ませるケースも含めて新紙幣対応には計約600万円かかる見込みで、運営会社の空(そら)慎吾社長(44)は「券売機が無いと店が回らないので、かなり重い負担だが仕方ない」と話す。
一方、福岡大の学生などが利用する定食店「しっとう家(や)福大店」(福岡市城南区)は新紙幣対応機の入れ替えを断念した。1台約200万円の買い替え費用がネックで、高橋明香店長は「食材など全てが値上がりする中、学生のためなんとか価格を据え置いているので券売機に大金は出せない」。新紙幣の来店客には店内で現紙幣に交換し、既存の券売機を使ってもらうことにしている。
大手スーパー、小売店のうち、福岡や大分などでスーパーを展開する「サンリブ」(北九州市)は全122店舗で機器の新紙幣対応を済ませた。また、「イオン九州」(博多区)も、スーパーやホームセンターなど341店舗のレジのデータの更新や部品の入れ替えを3日までに完了して対応するという。
今年に入り注文殺到 130台以上入荷待ち
券売機の販売・メンテナンス業者の一つ「自動サービス」(福岡県新宮町)では、今年に入って新紙幣対応機の注文が前年の3倍以上に増加した。通常は注文後約1週間でメーカーから品物が届くが、全国的な需要増のあおりで2月以降に受注した130台以上が入荷待ちになっている。6月に入荷できたのは12台にとどまり、最長で半年かかる状態だ。
新規オープン予定の店だと券売機そのものを設置できない事態になるため、同社が応急で新紙幣対応の部品に交換した中古機を貸し出している。田中信治社長(60)は「新紙幣対応機は昨秋ごろにメーカーから販売されたが、注文が集中したのは今年に入って新紙幣関連の報道が増えてから。ここまで入荷が滞るとは思わなかった」と話す。
豚骨ラーメンチェーン「一蘭」(博多区)では、国内全78店のうち約4割で使うボタン式券売機について、新紙幣対応の部品の入れ替えが必要だが、肝心の部品が品薄状態のため、3日までに作業できない見通し。広報の緒方和正さん(36)は「券売機の更新が終わっていない店では店員が会計の対応をする」と説明した。
飲料などの自動販売機の運用管理を手がける「サンコー」(博多区)では、21年から流通する新500円玉の対応作業も終わらない中、新紙幣対応の部品交換に追われている。設置場所は広範囲で1台ずつ手作業のため、完了には約2年かかる見込み。自販機には新紙幣が使えるかどうかステッカーを貼って示す予定で、情報企画室の大島秀一室長は「飲み物の需要が高まる季節にもなるので対応を急いでいる」と話す。
公共交通機関では…
公共交通機関はどうか。JR九州は管内にある約600台の券売機のうち、博多駅や小倉駅など大規模駅を中心に約300台で新紙幣対応の部品の取り換え作業などを済ませ、残りは25年12月までに順次進める。未対応機について、窓口のある駅では両替や切符の販売に応じ、無人駅や駅員不在の時間帯がある駅では、利用客に券売機横の二次元コードを読み込んでもらい乗車証明書を発行する。
西日本鉄道は、天神大牟田線などで全97台ある券売機のうち74台が対応済み。24年度末までに全券売機で新紙幣を使えるようにする。一方、グループ全体で約2400台保有する乗り合いバスは、両替頻度が多い路線を持つ営業所から順次、運賃箱を交換。25年度末までに対応を終える予定だ。【田崎春菜、下原知広】
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