6月27日、外為市場で金利差収入を狙った円売りが改めて存在感を増している。写真は円紙幣。昨年3月撮影(2024年 ロイター/Dado Ruvic)
外為市場で金利差収入を狙った円売りが改めて存在感を増している。短期売買を繰り返し値ざやを狙う投機筋のようにドルの上値を追いかけることはないが、下値ではすかさず買いを入れてくるスタンスで、円を歴史的な安値に押し下げる陰の主役となっている。その影響力から一部で「キャリー・モンスター(キャリー取引の怪物)」とも呼ばれており、将来の金利の方向性だけではなく、現在の水準に着目している点が特徴だ。
上がっても下がらないドル/円
年初来、主要通貨間で最も買われているのは米ドルだ。根強いインフレや足元景気の堅調ぶりが、年前半から市場の利下げ観測を後ずれさせ続けており、現在も米金利先物市場が織り込む9月の利下げ確率は5割強にとどまり、据え置きの可能性も依然4割近く残している。
高金利に支えられたドル高地合いが、円を安値圏へ押し下げる一因となっているのは間違いない。だが、主要通貨の騰落率を月ごとに見ると、ほぼ同調していたドル高と円安の関係性はここ数カ月で次第に崩れており、ドルの強弱とは関係なく、円が大きく売られる場面が増えている。
その理由のひとつと目されているのが、低金利の円を調達して高金利のドルなどで運用するキャリートレードの増勢だ。日銀がマイナス金利政策の解除後も緩和的な金融政策の継続を強調するにつれ、日米なら5%を超える大きな金利差を収入源とするキャリートレードが「世界的にも有数の魅力的な投資戦略」(外銀アナリスト)となったためだ。
バークレイズ証券で為替債券調査部長を務める門田真一郎氏のもとには、国内外の投資家から、キャリー投資戦略に関する問い合わせが数多く寄せられている。
「最近のドル安局面ではユーロやポンドが買われても、ドル/円はキャリートレーダーの買いで下げが持続しない。高値圏で推移しているうちに再びドル高局面が来ると、上値を試す動きとなりやすい」ことが、ドル/円を押し上げているという。
バリュー投資家をなぎ倒す
「はっきりした理由は見当たらないのだが、、」。最近の外為市場でよく聞かれる言葉のひとつだ。特段の手掛かりがない中、取引量が大きく膨らむこともなく、静かに円がじり安となっている場面で、困惑とともに使われることが多い。
米経済指標の下振れなどといったドル売り材料が出ても、あるいは米国債金利の低下や日本の国債金利上昇で日米金利差が縮小しても、ドル/円は下げ渋り、時には緩やかながら上昇する。この円売りの根強さや神出鬼没ぶりは、市場で「キャリーモンスター」(ソシエテ・ジェネラルのキット・ジャックス氏)とも揶揄されている。
「金利差がここまで拡大すると、今後の方向性より現在の格差そのものが重要だと指摘する顧客もいる。(円の割安感で投資する)バリュー投資家は、キャリートレーダーに追いやられてしまっているようだ」(同)という。
10兆円弱の円買い、介入効果2カ月にも満たず
頑強な円安圧力は対米ドル以外にも広範に波及し、きょうまでにユーロは171円後半、スイスフランは179円前半と史上最高値を更新したほか、NZドルは97円後半と38年ぶり、豪ドルが106円後半で17年ぶり、英ポンドが203円前半と16年ぶり高値を付けた。
ユーロやポンドなど他の主要通貨の対ドル相場はここ数カ月、円のような激しい動きは見られず、主要通貨に対するドルの総合的な動きを示すドル指数は、年初来高値にすら至っていない。円売り圧力の格段の強さは、こうした点からも見て取れる。
ある外銀関係者は「介入で10兆円近い円買いを投じても、2カ月もかからず歴史的安値へ反落させる円売り需要は強烈と言わざるを得ない。再び介入があっても効果を発揮させるのは容易ではない」と話している。
政府・日銀は4月26日から5月29日までの間に、9兆7885億円の介入を実施した。実施日などの詳細は不明だが、市場ではドルが前回160円台へ乗せた4月29日を含めて行われたとの見方が大勢となっている。
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