会見する小林製薬の小林章浩社長(左から2人目)ら=3月29日午後、大阪市北区(門井聡撮影)



小林製薬の紅麹(べにこうじ)成分のサプリメントをめぐり健康被害が相次いでいる問題は、同社の危機管理やコーポレートガバナンス(企業統治)を問う事態に発展している。専門家は「問題が深刻化する前に打つべき手はもっとあった」と指摘。報告の遅れが事態を深刻化させ、不十分な説明が混乱を拡大させた同社の対応から、企業が学ぶべき教訓が浮かび上がってくる。

「とにかく早く(回収を)周知したかった。原因特定を急いでいた」。3月28日に大阪市内で開かれた株主総会で、小林章浩社長はこわばった表情で説明した。

しかし、小林製薬による取締役会への腎疾患の症例報告や自主回収の最終決定、世間への公表は3月22日。症例を初めて把握した1月15日から2カ月以上が経過していた。

原因が究明されていない段階で回収に踏み切ることはコストがかかり、商品と健康被害の因果関係がなければ〝無駄〟になる可能性がある。だが、鎮痛剤に毒物が混入し、死亡者が出た米ジョンソン・エンド・ジョンソンなどのケースでは、迅速に情報開示と製品回収に取り組み消費者からの信頼が増した。

関西大の亀井克之教授(リスクマネジメント論)は「今回は目先のコストを気にするあまり、実際の被害以上に損失や影響が大きくなった。消費者や取締役会への報告に2か月もかかり、関連企業も打撃を受けている」と指摘。近畿大の芳沢輝泰准教授(コーポレート・ガバナンス論)も「かなり対応が遅い。症例を把握した段階で翌日にも事案を公表するべきだった」と話す。

企業統治の原則・指針となるのが金融庁と東京証券取引所が平成27年に定めた「コーポレートガバナンス・コード」だ。上場企業に経営の透明性や公平性を求め、社外取締役を一定数置くことを要請している。

小林製薬の取締役会にも4人の社外取締役がいるが、報告が遅れ、結果的に対応が後手に回った。中央大の青木英孝教授(コーポレート・ガバナンス)は「企業は(コーポレートガバナンス・コードなどにもとづき)整備した体制をどう機能させるのかの過渡期にある。情報が共有されなければ何の対応もできなくなる」と指摘。「消費者が犠牲になっているケースでの経営責任はより重くなる」と強調する。

問題公表後も記者会見でのあいまいな説明や情報を積極的に出さない姿勢に批判が集まっている。芳沢氏は「(情報を出さないのは)迅速な対応ができていなかったことに加えて問題だ」とする。

小林製薬が示した教訓を各企業は適切に生かす必要がある。亀井氏は「リスクの芽はあちこちにある。放置すると大変な事態を招くものかどうかを見極める〝リスク感性〟を(企業は)持つことが重要だ」と話している。(清水更沙)

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