10年前、少子化や人口流出に歯止めがかからず消滅する可能性があるとされた北海道の小さな町、上士幌町が若い移住者で活気づいている。一体どのようにして消滅可能性自治体から脱却することができたのか。

消滅可能自治体から脱却 北海道・上士幌町の挑戦

色とりどりの熱気球が大空を彩る人気イベント「北海道バルーンフェスティバル」。その舞台となっているのが、北海道のほぼ真ん中、十勝地方に位置する上士幌町だ。
ダム湖の水位で浮き沈みする旧国鉄士幌線のコンクリートアーチ橋や美人の湯として知られる「ぬかびら源泉郷」など観光資源にも恵まれている。

しかし、2014年。民間の有識者でつくる人口戦略会議は、今後30年間で、20歳から39歳までの女性の人口が50%以上減少する自治体を、消滅可能性自治体と定義。上士幌町もその1つに選ばれた。

上士幌町 竹中貢町長:
「町は生きている」というふうに思っている。手を加えれば加えた分だけ答えが出てくるのではないか。

竹中町長を先頭に人口5000人に満たない小さな町の挑戦が始まった。

町内には「自動運転バス」が巡回していて、町民でなくても誰でも無料で乗ることができる。車内には対話ができるAI車掌を全国で初めて導入した。今は安全を確認するオペレーターが乗車しているが遠隔監視も行い、将来的には完全な無人運転を目指している。

事業者は「高齢者の方が実際に乗って、街の中に出るきっかけにもなるし、町の活性化に繋がるのではないかと思う」。

さらに上士幌町では、日本初となるドローンの配送事業を実施。町民は「この辺、1日遅れの新聞配達だったが、きょうの新聞がきょう届くようになって、かなり便利になった」という。ドローンが配達に関わる人手不足を解消している。

上士幌町では人口の8倍近い3万7000頭の牛が飼育されている。上士幌町ではこの大量の牛から出たふん尿を発酵させてガスを取り出し、ガスを燃やして発電するバイオガス発電を行っている。それはまさにエネルギーの地産地消と循環型酪農だ。運営者は「太陽光発電や風力発電と比べて環境に左右されない、安定している。町全体をカバーできるくらい発電できるようになっていけばいい」と語る。

最先端の技術を活用したまち作りに加え、10年前から力を注いでいるのが、子育てや教育への手厚い支援だ。この認定こども園は無償なだけでなく、質の高い英語の教育も行っている。また、給食費も、高校生までの医療費も無料だ。他にも、子供1人につき100万円のマイホーム建設費の助成もある。さらには移住を検討している人が実際に、上士幌町での暮らしを体験できる住宅もある。家具や家電など、生活に必要な備品は全て揃っている。担当者は「冬の寒さに不安になる人が多いが、意外と家の中が暖かかったり、道がしっかり除雪されてたりして、結構安心される方が多い。移住を考えている人は、冬を体験してもらうと安心して移住できると思う」。

こうした政策を支えている財源が、ふるさと納税。上士幌町で作られた農産物は、ふるさと納税の返礼品として人気を呼んでいて、毎年15億円以上の寄附を集めている。寄附金を活用した手厚い支援が実を結び、2005年以降、町が把握する移住者は249人に上っている。移住者は「町全体で子供たちを見守って育てているところがすごく手厚い。自然が豊かなところと人との距離感がすごくちょうどいい」「東京ではできない仕事、畑や酪農家の仕事を手伝ったりとか、北海道でいろんな経験を増やしていきたい」「僕からするとディズニーランドの真ん中に住んでるみたいなその環境。子供たちはもう楽しくて仕方なくて、妻も自然が好きなので引っ越してきて良かったとところしかない。不便なことは何もないし、上士幌町のいいところは、余計なものが何もない」。

移住者が増えたことで、若年女性人口の減少率は10年前と比べて大幅に改善。2024年4月、上士幌町は消滅可能性自治体のリストから外れた。改めて竹中町長は「いかに町作りにこの挑戦をするかが、将来可能性の拡大に繋がっていく」と語る。

上士幌町 竹中町長に聞く 消滅可能性自治体からの脱却

――消滅可能性自治体からの脱却。どう受け止めているのか。

上士幌町 竹中貢町長:
これまでの取り組みの成果が出た。日頃のまち作りの成果の結果だと思っている。そもそも人口減少の課題を考えたときに、大きく2つあって、1つには、子育て教育がしっかりできている環境になければ、上士幌町に住んでもらえない、あるいは魅力を感じてもらえない。それから朝、多くの車が上士幌町に来ている。仕事に来るが、夜になったら閑散とするのでこれはまた非常にもったいない。そこを探っていくと、住宅環境が非常に乏しいので、そこにも徹底して手厚い支援をしてきた。弱点を克服するための支援だが、それがいろいろなところで取り上げられ、評価をもらい、定着するようになったということが最も大きな要因だ。

――消滅可能性自治体は全国に744もある。町長の立場から見て、何をするのが一番大事か。

上士幌町 竹中貢町長:
その町をよく知るということだと思う。よく町に何もないという話が出るが、みんなそれぞれ伝統や文化、産業等もあるのでそれをしっかり磨いていく。若者が来ても違和感なく住民と接することができたり、田舎ではあるが、次世代の技術、ドローンや自動運転バスなど最先端な取り組みが若者に夢を与える。こういう複合的な取り組みの結果が時間をかけて評価をもらったと思っている。さらに嬉しいことに昨日(2024年5月31日)国の方から、自動運転バスに運転手が乗らなくても走行可能という許可が下りた。この先、無人のバスが町を走るという日本でも最先端の取り組みがここから始まっていくので、技術者にとっても非常にわくわくするような町だと思ってもらえる。

――ローカルな視点と、最先端の技術やSDGsといったグローバルな視点と両方入っている。竹中さんの頭の中ではどういうふうに繋がっているのか。

上士幌町 竹中貢町長:
上士幌町の魅力は自然や環境、第一次産業。これをしっかり活かしきる。さらにSDGsやカーボンニュートラルという世界的な課題に最先端で取り組んでいる町でもあると思っている。田舎ではあるが、実は世界的な課題に挑戦する最先端の町だと誇りを持ちながら町作りを進めている。これは私たちだけの町だけではなく可能性は全ての地方にある。地方から日本を変えていくということになると思っている。

上士幌町を取材したTBS経済部の田中記者にも話を聞いた。

――2005年から移住者は249人。人口の5%だが、仕事は現地にあるのか。

TBS経済部 田中優衣記者:
町の制度で、地域おこし協力隊があり、町で働ける仕組みがある。町民や移住者の生活を少しでも良くするように考えられていて、そこが魅力となって外から入ってくる方たちも増えたのではないか。

――町おこしの中にその雇用創出する仕組みも仕掛けもあるということか。実際に現地に行ってみたら、何が一番印象的だったか。

TBS経済部 田中優衣記者:
町と技術のギャップ。空港から車で1時間強の距離にあるが、道中、山が綺麗だったり、牧場が広がってたりと北海道らしい景色が広がっている一方で、VTRにもあったように、自動運転バスが走ってたりドローンを活用されてたりとあまり東京でも見ないような最先端の技術が広がっているところに町民も、移住者も魅力を感じている。

――SDGsにも熱心で、バイオガス発電もあったが、上士幌町は脱炭素にも積極的なのか。

TBS経済部 田中優衣記者:
役場にゼロカーボン推進課があり、8人ぐらいのチームで形成されている。そこにいる人たちも若い人も移住者もいて、脱炭素など積極的に取り組んでいる。町の特性を生かしたSDGsの取り組みをしている。

識者に聞く、町おこし成功のポイントとは!?

――入山さんも全国のいろんな町作りに関与されているが、みんな悩んでいる。どうすれば町おこしができるのか。ポイントは何だと思うか。

早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏:
最大のポイントは、はっきりいうと人。何もないところでも魅力的な方が時間をかけてやっていると人が集まってくる。上士幌町はこの竹中町長。20年以上やられている。多分相当苦労されていると思う。首長はすごい重要で、いろいろなしがらみもあるし、議会が結構重要。議会から結構言われることもあったのではと想像するが、それを踏まえて長くやってきたから、竹中町長のところに人が集まってくる。こううまくいっている地域を見ると、1人か2人、キーパーソンがいることが多くて、おそらく町役場とか地元の団体にそういう人がいるのではないかと想像する。そういう人が外からいろいろな魅力的なことを引っ張っていくような相乗効果が起きているのではないか。

――最先端の技術や意識を具現化していくことが、田舎の町でもできるようになってきている。

早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏:
本当に重要なポイント。日本はいわゆる課題先進国。世界で今、最も課題がある国で、どこに課題があるかというと、地域。日本の地域が、一番世界で課題がある。逆に言うと中国はこれから少子高齢化が進むし、韓国もタイ、ヨーロッパも一気に進む。実は、日本が一番先を走っているので、ここで課題解決をすると、これが世界に展開できる。

――モデルケースにもなる。

ある意味で日本の地域は、世界で最先端。ここで自動走行やドローンをやっていくのは本当に最先端のことをしているので、そういうところに逆に若い方が惹きつけられるんだと思う。

(BS-TBS『Bizスクエア』 6月1日放送より)

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<プロフィール>
竹中貢 氏
北海道上士幌町 町長
1971年 上士幌町役場に入庁
2001年 町長に就任、街の発展に尽力
2024年 消滅可能性年から脱却

入山章栄 氏
早稲田大学ビジネススクール教授
米・ビッツバーグ大学 経営大学院より博士号取得
泉温は国際経営論、経営戦略論
近著「世界標準の経営理論」

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