スマートフォンなどで手軽にアルバイト応募ができるようになったことで、連絡なしで面接を「ドタキャン」する応募者が目立ち、採用者側が困惑を深めている。面接直前に待遇がより優れた別の募集先に乗り換える際に連絡しない事案が多い。背景には効率重視やSNS(ネット交流サービス)慣れなど「Z世代」特有の事情があるとみられる。対策として、求人サイトの運営会社はオンライン面接などのサービス活用を推奨する。
「面接に3人来る予定だったが全員が辞退した。しかも断りの連絡があったのは1人だけ。若者の感覚がおかしくなっている」。奈良市内のラーメン店の50代店主はあきれ顔だった。
今年1月、バイト1人採用のため大手求人サイトに登録したが問い合わせも少なく、ようやく3月に3人の面接日を設定したが結局1人も会えなかった。
「他の商店主からドタキャンの事例を聞いていたが、人ごとと思っていた」。求人掲載料を3カ月間で約10万円支払ったが採用には至らなかった。人手が足りないため、営業時間を短縮しながら一人で切り盛りしている。
「複数案件に応募」が遠因か
バイト求人サイト「タウンワーク」を運営するリクルート(東京)は「インターネットの普及でバイト探しが容易になり、求職者1人が複数の案件に応募できるようになった」ことが遠因とみる。
同社が3000人を対象にウェブで実施した調査によると「同時に2社以上応募して選考を進める」という学生求職者は約25%に上った。その後、辞退した理由は「早く決めたくて最初に面接を受けた企業を選んだ」や「より良い仕事が見つかった」が多かった。リクルートの担当者は「採用する立場の人が学生だった20~30年前は、電話応募が主流だった。当時と比べて採用活動が構造的に大きく変化している」と分析する。
無連絡辞退の理由は「電話が怖い」?
しかし、辞退は仕方ないとして、なぜ「無連絡」なのか。「マイナビバイト」の運営会社マイナビ(東京)が約3000人を対象に行ったアンケートでは、連絡せずに面接を辞退した人の割合は2023年が7・1%を占めた。21年の5・1%、22年の5・9%と比べ徐々に上昇。じわじわと増えており、マイナビは20年代以降に広がった若者特有の事情が関係しているとみる。
辞退の際に連絡しなかった理由は「行くのが面倒になった」や「日時や場所を間違えた」に加えて「電話で断るのが怖い」の回答も多かったという。「SNSなどで文字のやり取りに慣れ過ぎ、重要な電話を経験しない若者が増えている。そのため断り方が分からず、連絡放棄につながっている」(同担当者)とみられる。
マイナビは「連絡せずに辞退する人は全体的に少数派で、大半の若者は以前と変わらず社会常識を持ち合わせている」として、モラルが著しく低下しているわけではないと見る一方、今後も増加する恐れがあると懸念を示す。近年、就職の内定辞退を親が代わって連絡したり、社員の退職を代行するサービスを利用したりする事案が増えていることにも通じる「社会的な構造変化」とみられる。
ドタキャン対策のサービスも
そのため、求人サイトの運営会社は面接のドタキャンが起こりにくいサービスの提供を開始し、導入を勧めている。「バイトル」を運営するディップ(東京)は、各社の採用担当者に代わって自動応答で応募の受け付けから面接日の設定までを担うDX(デジタルトランスフォーメーション)サービスを始めた。
約2年前に導入した首都圏の飲食店は「事前に『週3回以上働けますか』などの質問を設定することで、条件をクリアした人しか応募できないようにでき、面接効率も上がっている。電話で対応していた頃は、面接日に来ない事例も多かったが、今はかなり減った」など評価している。
また、マイナビはオンライン面接の活用を勧める。「効率重視の若者が、面接に行くことを手間と考えて辞退することを防げる」ためだ。オンラインなら面接の場所を探して迷うことをなくせる効果も期待できる。また、文字入力による辞退の連絡を認めるよう助言する。「文字入力による連絡はハードルが低いため、“無連絡”は減らせる」とみている。【山口起儀】
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