焼酎の香気成分のサンプルをかいで確認する焼酎蔵元の関係者ら=福岡市博多区の福岡国税局で2024年5月14日午後3時56分、植田憲尚撮影

 「焼酎王国」として知られる九州だが、国内消費は減少傾向にある。そんな中、輸出拡大による活路を見据え「オール九州」での取り組みが動き出している。

 14日午後、福岡国税局(福岡市博多区)の一室。集まった人々が机上に並んだカップを手に取って鼻を近付け、真剣な表情で嗅いでいた。中身は焼酎に含まれる香気成分が入った液体で、ラベンダーや煙、ナッツに似た香りなど30種類が並ぶ。福岡国税局が主催した、プロ向けの焼酎講習会の官能評価訓練だ。

 福岡国税局が管内に限らず、熊本国税局管内の焼酎製造者も対象に昨年初めて開催し、今年で2回目。官能評価訓練に先立って2人の専門家から講義もあり、オンラインを含めて約60社が参加した。輸出を視野に入れ、貯蔵・熟成した本格焼酎の特性の他、こうじづくりや蒸留、貯蔵と酒質の関係性を学んだ。

 焼酎蔵元らでつくる九州本格焼酎協議会の多田格(いたる)会長(福岡県・天盃社長)は「ありがたい。こういう機会が欲しかった」と話す。全国各地の国税局は酒類を審査する鑑評会を開催しているが、焼酎でこうした研究結果を直接学ぶ機会がなかなかなかったという。

 背景について多田さんは「原料が米の日本酒と違い、焼酎は芋や麦などもあり原料や製法がそれぞれ違う。また日本酒は昔から国策として研究されて全国各地の英知が集められるが、焼酎は産地がほぼ九州であるため」と解説する。それゆえ、日本酒に比べて現場に詳しい研究者の数が限られているという。

 だが、国が日本産酒類の輸出に力を入れ始めたことや焼酎の国内消費減を背景に、福岡国税局としても支援に本腰を入れ始めた。焼酎は2000年代のブームを最後に国内の消費は減少傾向が続く。輸出額もこの10年で10億円台にとどまり、同期間に約4倍の400億円台になった日本酒と差が開いている。

 講習会で講師を務めた福岡国税局の倉光潤一・鑑定官室長は「輸出拡大には醸造技術の底上げが必要。焼酎メーカーのニーズをくみ取り支援していきたい」と話す。今後もこうした講習会を開催していく方針だ。

 一方、九州経済産業局などは21年度、本格焼酎と泡盛メーカーや関係機関の連携を強化する「本格焼酎・泡盛輸出促進ネットワーク」を設立。焼酎蔵元45社を含む計145組織・個人(23年7月時点)が参加している。

 定例イベントとして、先行する事業者や識者を講師に招く年3回のセミナーを開催。フランスの日本酒コンクール「Kura Master」で21年度から焼酎部門が設けられたことから、審査員らを九州に招くなど認知度向上を図った。担当者は「文化の発信地のフランスで広まれば他の欧州各国やアメリカなどへ広がる」と狙いを語る。セミナーは今年度も開催する予定。新型コロナウイルス禍が落ち着いたとことや円安も追い風と捉え、今後も輸出拡大に向けて側面支援していく方針だ。【植田憲尚】

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