生地をミシンで縫い付ける作業をする藤木玲於さん=兵庫県たつの市(福井亜加梨撮影)

ランドセルのシェア1位ブランド「天使のはね」で知られるセイバン(兵庫県たつの市)は創業100年を超える老舗メーカーだ。天使のはねは、背負いやすさを実現するため、肩ベルトに羽形の樹脂パーツが内蔵されているのが最大の特徴で、過去には業界シェア6割を占めたこともある。少子化が進む中でも、「ラン活」とも呼ばれるランドセル選びのブームがあり、市場は堅調に推移。デザインなどの多様化も進む中、職人による技術が子供たちのニーズに合わせた商品づくりを支えている。

立体縫う力仕事

約250個のパーツで作られる同社のランドセルは、すべて兵庫県たつの市の工場で生産されている。海外生産の製品もある中、天使のはねは国産にこだわり、パーツづくりのための裁断から、縫製や仕上げまで、作業の大半が職人の手作業で行われる。

ランドセルに使われる約250個のパーツ

中でも、ランドセル本体を背中に接するクッション部分などと縫い付ける「仕上げミシン」は検品前最後の重要な工程だ。立体を縫うには、平面の生地を縫うのとは違った手の動きやミシン技術が求められ、重量(通常タイプの完成品は約1・2キロ)のあるランドセルを持ちながらの作業には体力も求められる。

担当する藤木玲於さん(19)は「大事な作業なので、安心して使ってもらえるよう丁寧な作業を心掛けている」と話した。

生地を縫い上げる仕上げミシンの作業

釣りざおヒントに

同社の代名詞ともいえる「天使のはね」のアイデアは平成12年ごろ、ひょんなことから生まれた。当時の専務がお遍路さんとして四国をめぐっていた最中に「重心が上にくれば(背負う荷物が)軽く感じられる」と気づいたことがきっかけだった。

天使のはねとして最初に販売されたランドセル

漁師町の室津(たつの市)出身の職人とともに、根元が硬く、先が軟らかい釣りざおのしなりをヒントに、「肩になじむ形状を」と段ボールや鉄板などさまざまな材質や形状の部品を試作した末に約3年をかけて完成させた。販売開始の翌16年におなじみのCMソングが流れるようになると、知名度は飛躍的にアップ。17年には業界シェア6割に上った。

肩ベルトに内蔵される羽形の樹脂パーツ

ただ、その後生産体制を拡大させ、大量生産できるようになったことで、卸売会社に在庫が滞留するように。希望小売価格より大幅に値下げされる不当廉売が問題化した。

ブランド価値守る

直営店に並ぶランドセル。女の子には薄紫色や水色の人気が特に高いという=兵庫県たつの市

泉貴章社長は23年の社長就任後、卸売会社を買収するなどして販売体制を見直すとともに、生産工場も3工場を一本化。ブランド価値を守るため、現在は店舗やオンラインを通じた直営による販売を強化した体制をとっている。5年前に創業100周年を迎え、現在は少子化など市場の先行きも見据え、保育事業への参入やランドセルの海外展開などにも取り組んでいる。

ニーズやトレンドを意識した商品開発で、差別化も図ってきた。豊富なカラーやデザインのバリエーションだけでなく、学校までの距離や、タブレット端末などの持ち運びの有無、学校に教科書を置いて帰る「置き勉」の可否などによって異なるニーズに細やかに対応することが求められているという。

今年2月には、その日の荷物量に合わせて2つのサイズを付け替えられる「カスタムランドセル」や、収穫時に廃棄されていたパイナップルの葉を原料に使用したレザーで作られた「パイナセル」を新商品として登場させた。

「技術にこだわりたい」と語る生産統括部のライン長、国塚泰史さん=兵庫県たつの市

同社生産統括部の国塚泰史ライン長(37)は、自身も長女に天使のはねのランドセルを贈ったといい、「子供たちの笑顔のために考えられた機能やデザインも、技術がなければ台無しになる。6年間使い続けられる品質の礎にある職人のこだわり、熟練の目をこれからも守り続けたい」と語る。(福井亜加梨、写真も)

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