街を行き交う人たち=東京都千代田区で2023年1月29日、丸山博撮影

 円安を追い風にトヨタ自動車などの大企業が過去最高益を更新し、高額のすしや海鮮丼を楽しむ訪日外国人(インバウンド)も見慣れた光景になったが、恩恵にあずかっている企業は一部にとどまるようだ。帝国データバンクの調査によると、円安が利益を押し上げた企業は7・7%程度。逆に63・9%の企業が利益にマイナス影響を受けており、売上高が増えた企業も原材料費や海外工場のコストアップに悩んでいることが明らかになった。

 調査は5月10~15日、約1000社に円安の影響を聞いた。売上高への影響は「プラス」との回答が16%、「マイナス」が35%、「影響なし」が49%。利益面で「影響なし」は28・5%だった。自社にとって適正な為替レートは「1ドル=110~120円台」が50・1%と最多だった。

 かつては自動車や家電の輸出が日本経済を支え、円安は輸出企業の利益を押し上げてきた。一方、最近は1ドル=150円を超えて円安が進行する中、原材料コストが企業の収益を圧迫。製造業もグローバル展開で海外生産比率を増やしており、調査では「海外子会社とのやりとりでレートが悪すぎる」との声もあった。

 訪日客にわく国内消費も恩恵は限定的で、訪日客と接点のない企業や店舗からは「値上げで消費意欲が低迷している」(小売業)との声も。帝国データバンクによれば、円安を主因とする倒産は2023年度に全国で63件と前年から倍増。円安が間接的に影響した倒産はさらに多そうだ。

 訪日客による消費を広げようと、国などは企業向けの補助制度も設けるが、「制度を知らない経営者や訪日客への販売拡大に積極的になれない経営者もいる」(同社担当者)。新型コロナウイルス禍から続く業績低迷や人手不足に悩む企業に円安が追い打ちをかけ、事業継続を断念する例は今後も増える可能性がある。【久野洋】

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