北京で李強首相に過剰生産への懸念を訴えたイエレン(左) TATAN SYUFLANAーPOOLーREUTERS

<中国の補助金政策が代替エネルギーや電気自動車の過剰生産を引き起こしていると批判したイエレン米財務長官だが、問題の本質は別>

4月上旬、中国を訪れたイエレン米財務長官は、中国の補助金政策が代替エネルギーや電気自動車(EV)の過剰生産を引き起こしていると中国政府を批判した。

中国企業は手厚い補助金に支えられてコスト面で不当な優位性を獲得し、米企業を脅かしているというのだ。

中国の過剰な生産能力が問題なのはイエレンの指摘どおりだが、補助金政策が原因だとする主張は的外れだ。

私の世代の中国人にとって、過去40年の経済成長は夢のようだった。1990年代前半まで配給制だったのが嘘のように、今では簡単に手に入らないものを見つけるほうが難しい。

これは中国に限った話ではない。第2次大戦後の日本も同様の変貌を遂げた。輸出主導型の成長により国を再建し、産業を育成した。だが70年代に入り為替相場安定のメカニズムであるブレトンウッズ体制が崩壊し、さらにオイルショックが発生。

日本企業は消費主導型の国内成長に注力せざるを得なくなり、結果として生産能力が過剰に拡大し、80年代を通じてアメリカとの貿易摩擦に悩んだ。

中国の生産能力が過剰なのは歴然としている。中国経済が世界のGDPに占める割合は18%だが、製造業生産高では35%を占める。こうした不均衡は輸出で補正されるはずが、中国の輸出企業は需要の減少と地政学的緊張の高まりに直面し、ますます厳しい価格競争にさらされている。

莫大な生産能力の根本にあるのは、貯蓄重視型の社会だ。中国人は伝統的に自助意識が強く、政府にセーフティーネットの構築を求めるよりも、何かあったときのために貯蓄で備えようとする。

輸出の急成長に牽引される形で、貯蓄率は90年代末の35%から2010年には52%まで上昇した。現在は45%に落ち着いており、毎年7兆9000億ドルが貯蓄に回る計算だ。これが国内投資を刺激し、過剰生産の土台を築いている。

問題を悪化させているのが、貯蓄を革新的なビジネスに振り向ける活発な資本市場の不在である。中国では社会融資総量の70%を銀行融資が占め、銀行は革新的な事業への投資に消極的だ。

そのため投資はEVや代替エネルギーやAI(人工知能)など一部の有望なテック産業に集中し、こうした分野の過剰生産につながっている。

問題を解消するにはどうすればいいのか。内需拡大が効果的なのは言うまでもないが、国民の貯蓄行動を変える必要があるため時間がかかる。

唯一実現できそうなのは、中国企業による海外投資だ。これなら過剰生産能力の軽減につながるばかりか、相手国の産業振興も支援できる。中国はさまざまな発展段階にある国を相手に、労働集約型の製品からソーラーパネルやバッテリー、EVといった先端技術まで幅広く投資を行っている。

アメリカは特に投資を歓迎するべきだ。投資には、まず緊張緩和の効果が期待できる。80年代の日本はアメリカの自動車産業に多額の投資を行い、衝突を回避した。同じように中国の投資はアメリカの再工業化を後押しするだろう。

バイデン大統領の誤った戦略により、米政府は現在、代替エネルギーやバッテリー、EVに補助金を出している。だがどんなに補助金をつぎ込んでも、こうした分野で米企業が中国の競合企業に勝てないことは遅かれ早かれ明らかになる。

地政学的緊張が増したことで、今は米中を含め多くの国々が最も望ましい進路から外れている。米中のデカップリングが及ぼす影響を考えれば、両国には世界経済を再び軌道に乗せるべくイニシアチブを取り、協力する義務がある。

©Project Syndicate

姚洋(ヤオ・ヤン)
YANG YAO
1964年西安生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校で博士号取得(農業経済学、応用経済学)。専門は中国の経済発展と制度変化。北京大学国家発展研究院の経済学教授も兼ねる。

訪問先の中国を批判したイエレン米財務長官

Bloomberg Opinion: Yellen Junks Economics to Block China Clean Tech/Bloomberg Television
 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。