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<中国の地方都市で「EVを買って後悔した」が過半数に。充電インフラだけじゃない、先行する中国から見えるEV完全普及への壁>

前回書いたように、中国は次々と現れるEVの課題をプチプチと潰してきた。社会実装が進み、今ではEVを快適に使えるようになった......のは確かだが、それでもすべての問題が解決したわけではない。

2024年3月、マッキンゼー・アンド・カンパニーが公表した報告書「2024年中国自動車消費者インサイト」がちょっとした話題となった。

NEV(新エネルギー車。EVとプラグインハイブリッド車を合わせた中国独自のカテゴリー)オーナーに「次に買う車は内燃車とEV、どちらにしますか?」との質問をしたところ、2022年は「次もEV!」との回答は98%と圧倒的だったのに、2023年は78%にまで急落しているのだ。

この結果を見ると「中国人がEVを嫌いになり始めたのでは!?」と反射的に結論を出したくなるが、どうもそうではなさそうだ。「EVを買って後悔しましたか?」との設問に対し、「後悔した」との回答は大都市では10%にとどまるが、地方都市では54%と過半数を超えた。

その不満は主に充電にある。公共充電ステーション設置の遅れが不満につながっているようだ。EV普及に大盤振る舞いの中国とはいえ、広い国土の津々浦々に充電インフラを広めるのは容易ではない。地方政府の財政難が問題となっている中、大都市以外でも快適にEVを使えるようにできるかは悩ましい問題だ。

そうした中、悩みを解決してくれる選択肢として注目されているのがプラグインハイブリッド車。2024年4月、プラグインハイブリッド車の販売台数(輸出を含む)は前年同月比95.7%増の33万1000台と爆増している。

特に電力切れのときに補助的に使える発電用モーターを積んでおくレンジエクステンダーEVの人気が高い。一方、純粋なEVの販売台数は11.1%の51.9万台。このペースが続けば来年には販売台数が逆転しそうだ。

EVメーカーが倒産したらエンジンがかからなくなった

地方の充電インフラ以外にも課題がある。それは中古車価格。中国での3年落ちの中古車価格を見ると、日系やドイツ系の内燃車は新車の65%程度の価格を保っているのに対し、EVは50%弱にとどまっている。これは単にEVの寿命が短いからというだけではないのだとか。

EVにとって、最も痛みやすくかつ値がはるパーツはバッテリーだが、中古車のバッテリーがどういう状況にあるのか、良好なのか痛んでいるのかを客観的に評価する手法が確立されていない。そのため、消費者が疑心暗鬼になってなかなか買い手が見つからないのだという。

評価手法を確立せねばという話はだいぶ前から言われているが、今のところまだ解決されていない。

また、今後は「いつまで車内のコンピュータをアップグレードしてくれるの?」ということも問題になりそうだ。

先日、中国自動車メーカー関係者の講演を聞いたのだが、「いつまでアップグレードしてくれますか? コストがかかるし、すぐやめちゃいますよね?」との質問に対し、「そんなことはありません。きっちり面倒を見ます。3年か5年ぐらいは......」と回答していたのが面白かった。

新型車両が次々に発表されるのはいいのだが、そうするとソフトウェアのアップグレード対象となる旧車種ががんがん増えていくことになる。さすがに車が使えないということはなかろうが(EVメーカーが倒産したため、そのメーカーの車は遠隔操作でドアが開けられなくなった、エンジンがかからなくなった......という話は実際にあったが)、先端運転支援機能や車内エンタメシステムが正常に動作しなくなるのは普通にありそう。

つまり、安いメーカーのスマートフォンのように、ちょっと古い車はソフトウェアのアップグレードがされなくなり、価値を落とすということになりそうだ。

一方、一番の課題となりそうなのは、EVのバッテリー再利用の工程がまだちゃんと固まっていないことだ。これについても笑えないエピソードがある。

最近、中国では電動自転車の爆発炎上事故が多発しており、マンション内での充電が禁止されるなど政府が規制を強化する騒ぎとなっている。で、この原因なのだが、どうやら古いEVに積まれていたバッテリーがバラされて電動自転車に流用されているためとささやかれている。その中には劣化したものもあって事故につながっているというわけだ。

プチプチと課題を潰してきた中国にしても、まだ道半ば。EV完全普及の道は果てしない。脚を動かさなければ落伍してしまうが、進めば進むだけ新たなハードルが見えてくる。モビリティ革命はなかなかにしんどい。

■爆発!多発する電気自転車とEVの炎上事故

China Observer-YouTube


[執筆]
高口康太(たかぐち・こうた)
ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版新書)、『プロトタイプシティ』(共著、KADOKAWA、2021年大平正芳記念賞特別賞受賞)、『中国「コロナ封じ」の虚実』、『中国S級B級論――発展途上と最先端が混在する国』(編著、さくら舎)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。

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