九州電力の本社=福岡市中央区で2023年4月27日午後3時17分、久野洋撮影

 LGBTなど性的少数者のカップルやその家族を、異性婚の家族と同等とみなす企業が徐々に増えている。休暇や手当といった、従来は異性婚のみだった福利厚生などの対象を広げるもので、TOTOや九州電力などが制度の整備を始めた。社員の多様性を尊重し、働きやすさを高めることで人材の定着を図る狙いもある。【久野洋】

 九州電力は5月1日付で、配偶者や家族に関する福利厚生や休暇制度を同性パートナーらにも適用すると発表した。同居していることが分かる住民票などを提出し、家族であることを宣誓すれば、パートナーらの看病・介護をするための休暇や転勤同行休職ができる。世帯手当や単身赴任手当など給与面の恩恵もある。

 心と体の性が一致しないトランスジェンダーの社員には、本人が自認する性で就業できるよう治療休暇や通称名の使用を認める。トイレや更衣室は個人の希望や職場環境などで個別に判断するという。九電によると、大手電力会社では東京電力ホールディングスや関西電力に次ぐ制度整備だという。

 TOTOも2018年以降、同性カップルなどの福利厚生を異性婚とそろえる制度に変え、結婚祝い金支給やファミリー用社宅使用なども認めてきた。公共トイレなどを手がける同社は、性的少数者に配慮した事業展開を目指しており、社内制度の整備もこの流れをくんだ形だ。

 同社は、一般社団法人「ワーク・ウィズ・プライド」(東京)が、企業などの性的少数者に関する取り組みを評価する「プライド指標」で最上位の「ゴールド」に認定された。ベビーシッター補助などを同性カップルにも認めているコンサルティング会社「ペンシル」(福岡市)も8年連続でゴールド認定を得ている。同社の担当者は「多様な社員が活躍できる職場にしたことで従業員の勤続年数が伸びた」と話す。

 こうした企業は九州・山口ではまだ少数派だ。23年のゴールド認定326社は、関東や関西の大手企業や多国籍企業の日本法人が大半を占める。九州の企業は2社の他、ジャパンネットワークグループ(福岡市)、敬和会(大分市)、KMバイオロジクス(熊本市)などで、全体の2%程度だ。「シルバー」認定では56社に西日本鉄道(福岡市)などが入った。

 求人情報サイトを運営する「Indeed Japan」(東京)が23年に実施した、全国の人事担当者500人への調査では、社内の性的少数者支援に取り組む企業は24%にとどまった。特に地方企業や中小企業での取り組みの遅れが目立つという。

 性的少数者への配慮を打ち出す企業は従業員からの評価が高い傾向があり、性的少数者支援の実施企業の70%が「平均勤続年数が長い・伸びた」と回答。これは未実施企業の1・5倍に上る。また、実施企業のうち「従業員の職場環境に対する満足度が上がった」と回答した企業の割合は都市圏より地方の企業が2・8倍高かった。

 インディードは「多様性の尊重で、性的少数者だけでなく従業員全体の働きやすさが向上していると考えられる。特に地方企業で変化は顕著だ。企業の人材不足が課題となる中、従業員の働きやすさや職場への満足度を向上させることは非常に重要だ」としている。

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