恒例イベント「練馬大根引っこ抜き競技大会」で力を合わせて大根を引っ張る子どもたち=東京都練馬区で(同区提供)

 大根だけじゃない――。東京23区で最大の農地面積を誇る練馬区は大根の産地として知られるが、今や主役は別の野菜だ。

 練馬区の農地面積は23区全体の約4割を占める。人口約74万人を抱える住宅街には多くの農地が点在し、多種多様な野菜や果物が生産されている。

 生産量1845トン、作付け面積42・8ヘクタールで、ともに都内産の2割を占めるのはキャベツだ。2位の西東京市の2倍以上となっている。練馬区は昭和初期まで大根の産地として有名だったが、戦後はキャベツが中心になった。ブロッコリーや枝豆の生産も多い。

 野菜だけではない。柿やブドウといった果物の生産も盛んだ。観光農園は30園以上あり、ブルーベリーの摘み取り農園が多い。農産物直売所も区内にたくさんあり、取れたて野菜を購入することもできる。畜産では23区唯一の牧場があることでも知られる。

 区は気軽に野菜の収穫体験ができる農園を「ベジかるファーム」、果物を摘み取ったり直売所で購入できたりする農園を「果樹あるファーム」としてホームページでも紹介している。身近に手軽に農作業体験ができることが受け、区外からの参加者も多い。区と地元JAとの共催で2007年度から始まった「練馬大根引っこ抜き競技大会」は、中太で長く、その抜きにくさを逆手にとったイベントで冬の風物詩として定着している。

 農業の魅力を発信する区のアプリ「とれたてねりま」も人気だ。スマートフォンの地図上で直売所の場所を確認でき、農家が投稿した直売所や収穫体験イベントの情報を見ることができる。地場の農産物を使う飲食店の情報も掲載。21年11月のリリース以降、これまでに約2万ダウンロード、アクセス数は約45万を誇り、多くの人に活用されている。

新鮮な地場の野菜や加工品を購入できる「ねりマルシェ」。毎年秋に開催される=東京都練馬区練馬1の区立平成つつじ公園で(同区提供)

 プロの農家の指導の下、野菜の栽培方法のノウハウを学べる「農業体験農園」は練馬区の発祥として知られており、全国の都市農業をけん引してきた。農園主の丁寧な指導を受けることで、初めて農業をする人も野菜作りを楽しめる。区内にある18農園で計約1900組の人たちが利用しており、利用者の一人は「指導に基づいて収穫できた、取れたての枝豆を塩ゆでしてビールを飲むのは最高だ」と話す。

 一方、後継者不足や農地の宅地化という大きな波は練馬でも起きている。1975年に745ヘクタールあった農地は22年に182ヘクタールまで減った。85年度に1136戸あった農家戸数も22年度は398戸まで減った。

 それでも、都市農業の役割はますます高まっている。練馬区都市農業課は「練馬の農業は、住宅地の中でプロの農家がおいしい野菜を作っていることが特徴だ。消費者は自転車で行ける範囲内で、取れたての農産物を入手できる。採れたばかりの農産物が食卓に並ぶのは、お金では買えない練馬に住むことの価値だと考えている。農家の顔が見えることも、消費者にとっては安心材料となっている」としている。【山下貴史】

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