経営が苦しい寺院は少なくない(イメージ写真:PIXTA)急増する墓じまいから樹木葬、海洋散骨に至るまで、葬送をめぐる価値観の急速な変化とその実情を探った。『週刊東洋経済』4月13日号の第1特集は「無縁時代の『お墓』新常識」だ。『週刊東洋経済 2024年4/13号(無縁時代の「お墓」新常識)[雑誌]』(東洋経済新報社)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。定期購読の申し込みはこちら

Q これまで葬儀のお布施は、30万円が基準となっていました。ところが菩提(ぼだい)寺檀家(だんか)総代会よりお願いの文書が届き、寺の財政が厳しくなっており、これからは葬儀お布施の基準額を60万円に増額するよう求めてきました。どうすればよいでしょうか。(60代男性)

A 今回のお寺の総代会の文書は、あくまで「お願い」であって「決定事項の通知」ではありません。

また、葬儀によるお布施の基準額を60万円に増額するのは、考える際の基準額を増額することを「希望する」ものなのです。

檀徒(だんと)それぞれに事情がありますから、個々の事情を無視して定額を強制する権利は寺にはありません。寺の厳しい財政事情を考慮して、できる範囲での協力を願う文書と理解し、それぞれが可能な範囲で協力すればいいでしょう。

厳しさを増す寺の財政

こうしたお願いの文書がお寺から出されるのには、それなりの理由があります。寺の財政実態が近年厳しさを増しているからです。

その一例として、法事が近年明らかに減少傾向にあることが挙げられます。

法事は四十九日、一周忌、三回忌(2年目の命日、以下同)、七回忌、十三回忌、三十三回忌、一部宗派で五十回忌とあります。

1990年代までは、十三回忌までは営まれる例が多かったのですが、2010年以降は少子高齢化の影響が大きくなり、一般的には三回忌まで、長くても七回忌までという例が多くなっています。三十三回忌、五十回忌まで営む例は極めて少なくなりました。

これは80歳以上の死亡者が、全死亡者の7割近くと多数派になったことを背景とするもので、死者の関係者が少数化、高齢化したことがもたらした変化です。 

さらに地方では人口減や高齢化で檀信徒(だんしんと)の減少が激しく、財政基盤が弱体化しているところが多いのが実情です。存続危機に立たされている寺院は、全体の3割以上に上るとされています。

したがって、ご質問のように布施の増額を希望する寺院が出てきたことは、何ら不思議なことではありません。

檀家がしなければならないこと

Q 私の家は祖父母の代から今のお寺の檀家となっています。先年死んだ父に寺のことはすべて任せていたので、いざ自分の代になると檀家として何をやらなければいけないかわかりません。檀家としてしなければならないこととは何でしょうか。(50代男性)

A 「檀家」と通称されていますが、戦後は家制度が廃され、信仰は個人単位となりましたので、正確には「檀徒」または「檀信徒」といいます。

檀徒とは、寺を信仰的かつ経済的に支えるメンバーということです。

具体的に挙げてみましょう。家族の墓や納骨壇が寺墓地あるいは寺の納骨堂にあれば、その管理料相当額を定期的に年1〜2回、1万〜2万円程度を納めます。

また多くのお寺では檀徒総代会で年に5000円から1万円程度の「護寺会費」を徴収しています。寺を護持するための費用で、寺の修繕費などに充てられます。

そのほかには、月参りと称して死亡した家族の命日の月に、僧侶が各家を訪問してお経を上げてくれることがあります。家族の死者が3人いれば年3回となり、1回3000〜5000円ほどを包むことが多いようです。

またお盆や春秋の彼岸には、寺院で法要が行われます。参加する場合の金額は定まっていないものの、3000〜5000円程度を包むことが多いようです。

亡くなった家族の葬儀や、一周忌などの法事をお願いすれば、この場合も定額ではありませんが、それぞれ任意のお布施を包むことになります。

お布施は精いっぱいのお礼であれば尊いもの(写真:PIXTA)

寺がリフォームするなどして多額の修繕費、改築費を要するときは総代会で予算を決め、檀徒に寄進をお願いすることがあります。

さらに経済的なことだけではなく、寺の主催する行事への参加についても檀徒は要請されることがあります。参加するだけではなく、寺の行事で受付、案内、設営などの仕事が割り当てられ、協力を求められることもあります。

寺によって檀徒に期待していることは異なります。まずは住職や総代の人に伺ってみてはいかがでしょうか。

寺が困っているのは、お寺の行事や経済を積極的に支えてくれる人(アクティブなメンバー)が、檀徒の中で年々減少していることです。あくまで任意ではありますが、できる限り参加・協力したいところです。

「宗派不問」の墓地は?

Q 父は次男なので、今住んでいる市に新しく墓を求めました。「〇〇寺霊園」という名ですが「宗派不問」とありました。父母が死んだ場合、この寺に葬儀や法事をお願いする必要はありますか。(60代女性)

A 名称に寺名がついているものの、戦後造られた宗派不問の墓地は「寺墓地(寺院境内墓地)」ではなく、「民営霊園(墓地)」となります。

この場合、改めて希望しない限りは寺の檀徒にはなりません。したがって、自動的に寺の檀徒に数えられることもありませんし、葬儀や法事をそのお寺に依頼する義務もありません。

(写真:PIXTA)

同じ寺墓地であっても、寺の檀徒のみに使用を許される墓地の場合、宗派は自由とはいきません。信仰は必ずしもその寺と同じではないにしても、その寺の宗派を否定せず、檀徒として寺をさまざまな形でサポートする意思を表明した人が檀徒とされます。正確には、こうした檀徒にのみ使用を許される墓地を、寺院境内墓地といいます。

民間霊園の場合は、管理料は「年間1万5000円」などと定額で定められています。墓地の管理料で注意しなければいけない点は2つあります。

1つ目は、この管理料は墓地全体の管理の費用に充てられ、個別の墓所の清掃・管理はそれぞれの使用者の責任で行う必要があること。2つ目は、墓地の管理料の支払いが停止して一定年経過すると、墓所として使用する権利を失うことです。

※【後編】はこちら。

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