住友化学の岩田社長は会社の状況が「危機レベル」にあるとの認識を示した(編集部撮影)

「純損失で3000億円を上回る、当社として過去最大、危機レベルの数値となり、この事実を重く受け止めております」

住友化学は4月30日、経営戦略説明会を開催。岩田圭一社長は、会社の現状をそう語った。住化は経団連の十倉雅和現会長、3代前の米倉弘昌元会長と財界総理を輩出。その名門がまさに危機に瀕している。

この日、2023年度の業績見通しを下方修正、一時要因を除くコア営業損益は1490億円の赤字、純損益は3120億円の赤字になったもようと発表した。当期の下方修正は3度目で、赤字額は過去最悪となる。

深刻な構造問題

背景には、医薬品と石油化学(石化)という2事業の不振がある。住化にとって厳しいのは、両事業ともに構造問題を抱えており、立て直しが容易ではないということだ。

まずは医薬品事業。上場子会社である住友ファーマは、主力だった抗精神病薬「ラツーダ」の売上高が米国での特許切れに伴い第3四半期までで97%減。これが響き、経費などを賄えない状況にある。

さらに、特許切れを見越して買収などでそろえた製品が期待に達しないことなども重なり、計2000億円超の損失を強いられた。結果、住友ファーマの23年度の純損益は3150億円の赤字。出資分だけ住化の純損益に反映される。

住友ファーマは、北米で23年度に約1000人を削減したほか、研究開発費用も大幅に絞り込む。1000億円以上の合理化効果などで24年度はコア営業利益での黒字化を目指す。

従来、住友ファーマは上場子会社として独立経営を尊重してきたが、「住友化学が中に入って取り組んでいく」(岩田社長)。住化は債務保証による金融支援を実施するほか、企業再生の外部専門家を活用した合理化支援や複数の経営人材派遣なども行う。

ただ、人員や研究開発費の削減は急務だが、今後の成長シナリオは描きにくくなる。そもそも有望な新薬を創り出すのにすべての医薬品メーカーが難渋している中、国内中堅にすぎない住友ファーマの立ち位置を見いだせないという根本原因がある。

岩田社長は「あらゆる選択肢を検討していく」と、持ち株売却の可能性を示唆。すでにM&Aかいわいでは住化による売却を念頭に置いた動きが始まっている。

悩みの種はラービグ

石化事業も頭が痛い。中国の経済減速を受けて、汎用的な石化製品の市況が低迷している。業界の中でもとくに住化の業績悪化が深刻なのは、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコとの合弁会社ペトロ・ラービグを持ち分法適用会社として抱えているからだ。

産油地に立地し、原油よりも安価なエタンガスを主原料とするラービグは、「極めて競争力のあるプロジェクトのはずだった」(岩田社長)。そのコスト競争力への自信もあってか汎用品が主力。しかし、前述のとおり、汎用品市況の悪化で利益が出ない。

加えて、ラービグは石化の前工程である石油精製も行う一貫プロジェクトで、精製プラントの競争力にも難がある。低付加価値の重油を多く産出し、ガソリンやジェット燃料など高付加価値品の割合が低いのだ。

住化はアラムコと「共同タスクフォースチーム」を結成し、短期集中で事業の位置づけの見直しを始めてはいる。しかし、短期にできることは限られている。ラービグを抜本的に改善するには精製プラントの高度化や石化の高付加価値品シフトが必要で、費用も時間もかかるからだ。

一方、住化は追加資金は出さない方針を明確にしている。ラービグとしての資金調達のやり方次第で住化の持ち分比率が低下して影響が緩和される可能性はあるものの、石化市況の回復頼みというのが現実だ。

石化事業に関しては、シンガポールでも一部で生産撤退など事業再構築を推進。国内でもエチレンプラントの合理化を打ち出している。

国内のエチレンの生産能力過剰と低稼働は業界全体で長年の課題となってきた。だが、上工程、下工程の企業群がパイプラインなどでつながれたコンビナート特有の事情があるため、再編はなかなか進んでいない。

険しい復活への道のり

さらにカーボンニュートラル対応や環境負荷低減も迫られる。これらも業界共通の問題で、ビジネスチャンスでもあるが、投資負担が重いことに変わりはない。

住化は24年度にコア営業利益1000億円・純利益200億円、30年度にはコア営業利益で3000億円近い目標を掲げる。

24年度については減損一巡やリストラ効果で手が届かない数字ではない反面、農業やICT、再生医療を成長ドライバーとする30年度の実現性は薄い。名門復活への道のりは険しそうだ。

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