暗号資産(仮想通貨)ビットコインの価格高騰が、高級ファッションブランドや小売業者の注目を集めている。11月24日撮影のイメージ写真(2024年 ロイター/Dado Ruvic/Illustration)

暗号資産(仮想通貨)ビットコインの価格高騰が、高級ファッションブランドや小売業者の注目を集めている。富裕層の新規顧客を取り込み、仮想通貨投資家との親密な関係を構築する手段として、暗号資産での決済を提供することへの関心がますます高まっている。

最近まで、暗号資産による支払いを試験的に実施していたのは仏LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)の時計ブランドであるウブロやタグ・ホイヤー、仏ケリング傘下のグッチやバレンシアガなど、ごく一部の高級ブランドに限られていた。

しかしここにきて、仏高級百貨店プランタンが世界最大の暗号通貨交換所バイナンス、仏金融テクノロジー企業Lyziと提携し、フランス国内の店舗でビットコインやイーサリアムなどの暗号通貨を受け入れると発表した。欧州の百貨店として初の試みだ。ビットコインの高騰を背景としたこの動きは他のブランドや小売業者にも認知され、同様のサービス参入に興味を示す企業が出てきている。

バイナンス・フランスのデービッド・プリンケイ社長は「相当数の問い合わせがあり、関心が寄せられている」と語り、同社が他の高級ブランドとも協議中だと付け加えた。

高級ライターと筆記具のエス・テー・デュポンはロイターに対し、休暇シーズン前にパリの2店舗で仮想通貨による支払いを受け付ける方針を明らかにした。

モノの販売以外にも、クルーズ船運営のヴァージンボヤージが今月、ビットコインを支払いオプションに加える最初の商品として、最大1年間の航海が可能な年間12万ドルのパスを発売した。

規制当局は長年、ビットコインのような仮想通貨は実世界での用途が限られたハイリスク資産であると警告してきた。ボラティリティーの高さも、支払い手段として広く採用される上での障壁となってきた。

しかし、仮想通貨を支持するトランプ次期米大統領が、仮想通貨の規制緩和を実施すると予想されていることから、ビットコインは過去最高値を更新。S&Pのアナリストは、金融市場におけるブロックチェーンの革新が仮想通貨の予測可能性を高める可能性があると指摘し、状況は変わり始めていると指摘した。

<革新的なブランディング>

高級ブランドは、ハイテク業界の富裕層顧客を取り込むための試みを重ねてきた。米シリコンバレーの高級ショッピングモールに店舗を出したり、仏エルメスの場合は同社オリジナルの腕時計端末「アップルウオッチ」を発売している。

ビットコインの高騰は、高級品を取り扱う業界が過去数年で最悪の不況に陥り、新たな成長源を模索している最中に起きた。ビットコインは16日に10万7000ドルを超えて最高値を更新している。

仮想通貨決済を導入することは、「団塊世代にしか売れない時代遅れのブランド」ではなく、革新的な企業として自らをブランディングする手段になり得るとS&Pグローバル・レーティングのデジタル資産担当主任アナリスト、アンドリュー・オニール氏は言う。

仮想通貨決済のオプションはまだ象徴的な意味合いが強い。小売業者は通常、変動リスクを相殺するために仮想通貨をユーロやドルに交換しているし、大半の買い物客にとって決済手段の問題は既にペイパルやベンモなどの取引プラットフォームによって「解決済み」だとオニール氏は話す。

しかしアナリストによると、投資価値が大幅に上昇したビットコイン投資家にとっては、ポートフォリオの分散投資先としてデザイナーズのハンドバッグや高級時計などが当然の選択肢になる。

デザイナーズブランドによる仮想通貨への関心の高まりを示す兆候として、バレンシアガは最近、仮想通貨ウォレット企業レジャーのハードウェアウォレット「スタックス」を収納するためのレザー製カードホルダーを発売した。350ユーロ(368ドル)の黒いレザーアクセサリーにはキーチェーンとエッフェル塔のチャームが付いており、ブランドロゴの下にNFC(近距離無線通信技術)チップが付けられている。

<若い顧客層へのアプローチ>

ケリングの最高顧客・デジタル責任者であるグレゴリー・ブット氏は、テクノロジーに関する同グループの戦略について「様子見ではなく試行錯誤」だと言う。同氏は、若い世代やアジアの顧客層にアプローチする上で、新しい技術の採用が鍵を握ると強調した。

ケリングの主力ブランドであるグッチは2022年以降、米国でほとんどの製品について10種類の仮想通貨による購入を可能としている。

プランタンはニューヨークにも仮想通貨決済サービスを拡大すべく取り組んでおり、3月にはウォール街に複数ブランドの店舗をオープンする予定だ。

仮想通貨を支持するインフルエンサーで投資家のユーニス・ウォンさん(通称ユニコーン)は最近、仮想通貨を使って高級品を買った1人だ。オーデマ ピゲの「ロイヤルオーク」モデルを含む幾つかの高級腕時計を今年購入した。

だが彼女は、顧客との親密な関係を築こうとする高級ブランドの戦略にはひかれず、従来型の小売店や販売ルートは使いたくないと言う。時間がかかり過ぎるからだ。「買うならそんなところを通さずに流通市場で買う。今すぐ欲しいから」とロイターに語った。

[ロイター]


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