「ほぼカニ」を開発したカネテツデリカフーズの宮本裕志さん=神戸市東灘区で2024年4月24日午後2時54分、澤俊太郎撮影

 創業98年の練り製品メーカー「カネテツデリカフーズ」(神戸市東灘区)が販売するカニ風味かまぼこ「ほぼカニ」が発売10年を迎えた。本物のカニのような味と食感が売りで、累計販売数7000万パックを突破するヒット商品となっている。開発部長の宮本裕志さん(52)は「本物のズワイガニに近づけるためにこだわり抜いた結果だ」と振り返る。

 兵庫県伊丹市出身の宮本さんは1990年、高卒でカネテツに入社し、生産ラインですり身の生地を作ったり、生産計画などを立てたりする部署に配属された。練り物メーカーのメインターゲットは高齢者層だったが、若い世代に訴えかける商品が作れないか考え続けてきた。

シート状にしたほぼカニの生地に、機械で繊維を入れていく製造工程を説明する宮本裕志さん=神戸市東灘区で2024年4月24日午後3時16分、澤俊太郎撮影

 2010年ごろに志望した商品開発室に異動となった。魚のすり身に豆乳などを加えた揚げ出しを開発すると「ヘルシーで彩りもある」と若い世代にも好評で、手応えを感じていった。

 12年ごろ「ズワイガニ風味のかまぼこ」の企画が持ち上がった。当時、ズワイガニは高騰していた。代替として消費者に楽しんでもらうことを狙い、他社製品との差別化を図るため「世界一ズワイガニに近いかまぼこ」をテーマに各部門から人員を集めて取り組んだ。

 まずは味にこだわった。本物のズワイガニのうまみ成分を分析し、アミノ酸の数値を完全に再現。だが試食すると物足りなさを指摘する意見が目立った。「一口だけでズワイガニだと感じてもらうインパクトが必要ではないか」。そう思い至り、本物よりも数値を上げて調整し「本物以上」のうまみ成分を表現した。

 食感と形も工夫した。身の繊維の細さや角度を分析し、口に入れたときの食感が同等になるよう試作を重ねた。スティック状のかまぼこを作る機械しかなかったため、カニの身の形を再現する機械も導入。取引先との商談に完成品が間に合わないほど追求を続けた。

スーパーに並ぶ「ほぼカニ」=神戸市東灘区で2024年4月24日午後1時3分、澤俊太郎撮影

 「ほぼカニ」を14年3月に発売すると「本物のカニだ」「食感がそのまま」などと口コミやSNS(ネット交流サービス)で反響があった。ネーミングも受け、年々売り上げが増加。22年には国内メーカーが作る全ての練り製品の中で売り上げ1位となった。宮本さんは「味に自信はあったが、まさかここまでとは」と苦笑する。

 同社はホタテやエビなどで再現する「ほぼ」シリーズの開発を続けている。アレルギーで本来の食材が食べられない人にも好評だ。宮本さんは「自分が信じてやってきたことは間違っていなかった。これからもお客様のためという理念のもと、より良い商品を作っていきたい」と話す。【澤俊太郎】

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